財務トピックス(コンサルタントコラム)

中小企業が実践している 企業成長に向けた攻めのホールディングス化(2)

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4.ホールディングス化の失敗事例

従来のホールディングス会社は、相続税や贈与税等の税金対策、所謂事業承継を目的として、設立されるケースが多く見られました。

我々では、このようなホールディングス化を「守りのホールディングス」と呼んでいます。実際に、事業承継を目的としたホールディングス化の提案を受けたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

まさにこの流行の根源は、前述に記載した1997年独占禁止法の改定における持株会社設立の解禁です。これに目をつけた企業が、事業承継対策としてこの制度を利用し始めたのです。

皆さんご想像の通り、事業会社の株式を保有するだけのペーパーカンパニーでは、何の企業成長も生み出しません。

しかし、そのような状態に陥り、
・ホールディングス会社が機能していない
・単に企業数が増えただけで管理が煩雑になっている
・過度な節税スキームが国税庁から租税回避と指摘される

など、様々な問題を抱えている企業を目にします。

もちろん、守りのホールディングスが悪いのではありません。
ここでお伝えしたいのでは、守りだけでなく攻めの部分も同時に考え、ホールディングス化を実施することが、ホールディングス体制を成功へ導く一歩であるということです。

5.ホールディングス化のメリット・デメリット

それでは中小企業におけるホールディングス化のメリット・デメリットはどこにあるのでしょうか。
まずは6つのメリットを見ていきましょう。

①効率的なグループ経営
ホールディングス会社の役割でもお伝えした通り、ホールディングス会社を設立する最大のポイントは、株式所有と事業経営の分離です。

複数の事業会社を統括するホールディングス会社は、グループ投資戦略の立案実行をすることができます。
例えば、事業会社D社が持つ汎用性の高い技術を事業会社E社で使用することで、商品に付加価値を出すことができたり、事業会社F社の業績が芳しくないときに、業績拡大経験のある事業会社G社の経営者を事業会社F社へ人事異動することもできます。

グループ戦略と事業戦略の機能を切り分けることで、意思決定を迅速に行い効率的なグループ経営を図ることができるため、グループ全体をスピーディに成長させる体制を実現することができます。

②機動的なM&A
後継者不在の問題から、M&Aの案件は年々増加傾向にあります。既存従業員の育成や新規店舗の黒字化などによる企業成長スピードと比較すると、M&Aによるスピードは類を見ない速さです。近年、このような観点から、M&Aによって成長を収めている企業は多く見られます。

一般的な企業が買収する場合、親子関係が生じてしまう一方で、ホールディングス会社が買収する場合、グループ傘下に入る事業会社という組織になるため、買収された子会社の従業員のモチベーションは下がりにくいこともメリットです。このように、ホールディングス会社が買収する企業の株式を保有することで、機動的なM&Aを実現することができるのです。

③従業員のモチベーションアップ・スキルアップ
オーナー一族が経営者を務める中小企業において、従業員が目指すことのできる最高キャリアは役員や事業部長となるケースが多く、キャリアプランに限界が生じます。

しかし、ホールディングス化を実施すると、事業会社の経営者というポストが生まれ、中間管理職のポストも増えるため、従業員にチャンスを与えることができます。その結果、従業員のモチベーションアップやスキルアップが期待できるうえ、リクルーティングもしやすくなります。

また、独立志向の強い従業員に対して、社内ベンチャー制度のようなチャンスも与えることができるため、優秀な人材流出の防止や事業の可能性を広げることも期待できます。

④柔軟な労働条件の設計

それぞれの業種や職種に合った人事評価や給与制度など労働条件を設計することは、大変重要です。1つの企業内に複数事業を展開しているにも関わらず、どの事業においても同じシステムにて労働条件を設計していた場合、信憑性に欠けてしまいます。

例えば、住宅不動産業と介護業のように主な稼働日が異なる業種や、営業職と開発職のように職務が異なる職種では、従業員の働き方も大きく変化します。
ホールディングス化を実施し、各事業会社の形態にあった労働条件を設計することで、従業員にとって働きやすい環境を整備することができます。

⑤事業リスク分散

下記企業を例に考えてみましょう。
地域No.1企業を目指すH社は、飲食業・運送業・不動産賃貸業を営み、1つの企業内で複数の事業を展開しています。順調に業績を伸ばしていたものの、飲食業で不祥事が発生し、行政から業務停止命令を受けてしまいます。その結果、他事業である運送業・不動産賃貸業へも影響を及ぼし、会社全体の機能が停止したため、倒産を余儀なくされました。

上記は最悪のケースですが、他事業を展開している企業が、このような事態を招く可能性は大いに秘めています。

このようなリスクを鑑みて、ホールディングス化を実施し事業会社を設立することで、事業リスクを抑え、万が一の場合グループ全体への影響を軽減することができます。

⑥スムーズな事業承継

まず、税金対策となる下記2つを簡単にお伝えします。
・株価引き下げ
・株価上昇抑制

ホールディングス会社とはでお伝えした通り、ホールディングス会社の売上は、事業会社からの地代家賃・経営指導料・業務委託手数料・配当などになります。

すなわち、高収益である事業は事業会社として子会社化しており、ホールディングス会社は経理・総務・人事などのバックオフィス機能や、経営企画室・営業推進室などのグループ投資戦略機能のみ保有している状態です。これによって、ホールディングス会社は低収益部門のみであるため、株価の引下げ効果を得ることができます。

また、ホールディングス会社によって事業用不動産を保有し、子会社から地代家賃を得ることで、株式保有特定会社に該当せず類似業種比準価額を評価要素に利用できることから、副次的に株価上昇の抑制も期待できます。

次に、後継者対策をお伝えします。
エリア拡大や事業の多角化を進めた結果、規模が大きくなった企業の経営権を、後継者へ一挙に承継することはこの上なく困難です。

ホールディングス化によって、事業会社の経営者ポストを設けることで、後継者が経営者にとって必要なスキルを取得する体制整備をできるだけでなく、経営権を分散させることで負担軽減にも繋がります。

次に、3つのデメリットを見ていきましょう。

①人材育成の必要性
事業会社の経営者ポストを設けるということは、其れ相応の人材を育成する必要があります。

中小企業のホールディングス化直後は、ホールディングス経営者が事業会社の経営者を兼務しているケースが多いですが、この状態がずっと続くのは好ましくありません。

中小企業のように限られた人材の中で、ホールディングス経営を上手く回すためには、ホールディングス化をする前から、幹部候補の選出もしくは幹部候補への人材育成を実施し、経営者資質を身に着けるための機会を設けることが必要です。

②管理コストの増加

ホールディングス化を実施する際、組織体制や組織機能の設計を充分に行う必要があります。なぜなら、事業会社の分け方によって、組織体制や組織機能が複雑化し、事業会社間で部門の重複が生じてしまい、管理コストが増加する恐れがあるからです。

特に、経理・総務・人事などのバックオフィス業務は、経営を維持するために必要不可欠です。独立法人である以上、事業会社間の連携や部門統一を図ることは難しいです。そのため、バックオフィス業務をホールディングス会社へ集約させ、グループ全体の業務効率を向上させることは重要となります。

③連携不足による負のシナジー効果

各事業会社が自社の事業に集中するあまり、事業会社間の連携不足が発生し、シナジー効果が発揮されないことがあります。

例えば、部長などの役職者にどこまでの権限を移譲するか悩んだことはありませんか。移譲しすぎると目が行き届かなくなり、移譲しなさすぎると差配するスピードが劣ってしまいます。まさに、同様の考え方です。

事業会社に権限移譲しすぎるとホールディングス会社が情報を得ることが少なくなり、効率的なグループ経営が難しくなるでしょう。反対に、ホールディングス会社が権限を持ちすぎてしまうと、事業会社による迅速な意思決定ができなくなります。だからこそ、適切な権限を保有することが、重要なポイントです。

6.ホールディングス化を実施する判断基準

以上、抑えるべきホールディングス化の基礎知識、ホールディングス化を検討する中小企業の特徴、中小企業におけるホールディングス化のメリット・デメリットを、事例を踏まえてお伝えさせていただきました。

全ての中小企業にとって、ホールディングス化が企業成長の最善策ではありません。
お伝えしたように、ホールディングス化はメリットだけでなくデメリットも生じます。

メリットがデメリットを上回ったときこそが、ホールディングス化を実施するときです。

「ホールディングス化を検討している企業に似ているな」「メリットを享受できそうだな」と感じられた方は、攻めのホールディングス化を検討されてみてはいかがでしょうか。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

【この記事を書いたコンサルタント】
白田 彩夏

関西学院大学卒業後、メガバンクの事業承継・ファイナンシャルプランナーとして勤務し、新卒から4年連続で営業表彰を受賞。
船井総研入社後は、企業オーナーが抱える悩みを、法人財務の側面のみならず、オーナーが持つ「資産」の観点からもアプローチできることを強みとしている。
持ち前の明るさで、オーナーの目指す姿を照らす元気玉として活動することをモットーとしたコンサルティングの提供を行っている。

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