財務トピックス(コンサルタントコラム)

【中小企業版】金融時流を理解し銀行を味方につける令和時代の「新常識」とは? ~彼を知り己を知れば百戦殆うからず~(2)

  • 最終更新日/

1.はじめに
2.金融検査マニュアルとは
3.金融検査マニュアルの廃止により何が変わるのか?
   3-1.事業性評価 「過去」から「将来」へ
   3-2.求められるコンサル力 「もの売り」から「サービス」としての融資へ
4.「メイン」を考える
5.まとめ

前回、2020年の金融時流を理解するために「金融機関に大きな影響を及ぼす金融検査マニュアルとは何か?」ということをまずお伝えさせていただきました。
前回の内容はこちら

今回は、その金融検査マニュアルの廃止に伴いどの様な変化が生まれてくるのか、そうした時代において企業はどのように金融機関との関係性を組み立てるべきか、の2点についてお伝えいたします。

3.金融検査マニュアルの廃止により何が変わるのか?

金融検査マニュアルの廃止に端を発する2つの変化についてお話しします。
(1)事業性評価の推進:「過去」から「将来」へ
(2)求められるコンサルティング力:「もの売り」から「サービス」としての融資へ

一つずつ見てみましょう。

3−1.事業性評価 「過去」から「将来」へ
金融機関は企業の決算資料を基に、融資が可能な会社か否かを判断します。

融資が可能というのは、その企業の返済能力を見ているということでもあります。もしその返済能力が十分であると見ることが出来ない場合は、金利を高く設定したり、不動産を担保にいれることを条件にしたり、保証協会融資にすることで、「万一返済が出来なくなった場合」に備える形で融資を組み立てます。

一般的に金融機関は創業資金融資や実績の少ない(設立年数の浅い)企業への融資に積極的ではありません。これは「決算書」といった「過去」の情報を根拠に融資を検討する体質から生じるものであり、またこうした企業は十分に担保となる資産を有していない等の理由も挙げられます。

事業性評価融資とは、「過去」の情報に加え「将来性」も含めて判断する融資となります。決して「過去の情報を一切使わない、定性情報にのみ基づく融資」ではないということを押さえておきましょう。

とはいえ、これは大きな変化です。例えば決算書上ひとことに「赤字着地」と言っても、企業の競争力低下による恒常的な赤字と企業成長のための先行投資による一時的な赤字では全く意味合いが異なります。その真意が金融機関に伝わらず、格付が落ち、融資が思うように下りずに投資を行えなければ、それは大きな機会損失です。同様に、これは金融機関にとっても損失となります。過去の実績ベースのキャッシュフローを重視するあまり、将来生まれ得るキャッシュフローを見過ごしていては、金融機関にとっても将来の収益の芽を自身の判断によって摘んでしまうことになるからです。

金融機関職員にも「目利き力」といい、企業やその経営者の力量を捉える力を磨いたり、業界についてより理解するをといった努力が一層求められる時代となってきてはいますが、当然その業界で陣頭指揮を執る経営者、現場の従業員の方が、自社や市場に対する深い理解を持っているはずです。

決算情報の中身はもちろん、そこには表れない自社のビジネスモデルの強みについて、今後の市場の動きについて、自社で計画している投資案件について、しっかり金融機関へ伝えられる企業は、次の時代にこの事業性評価融資を上手に活用する企業に違いありません。

3-2.求められるコンサル力 「もの売り」から「サービス」としての融資へ
2019年12月に金融庁が発表した「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」にて、金融機関の現状と課題として「ビジネスモデルの多様性の発揮が求められる時代への対応」ということが挙げられています。

かつては、国内の資金不足のため、資金ニーズが高く、金融機関が貸出先を選択することができたが、近時は、金融を巡る環境が、人口減少・高齢化の進展、低金利環境の長期化等、大きく変化してきている中、金融機関間の金利競争が続き、金融機関が貸出先から選ばれる時代となっている。
(引用:金融庁 検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方 3貢)

金融検査マニュアルが設けられて20年、全国の金融機関が、それは株式会社である銀行から、協同組織金融機関である信用金庫や信用組合までを含め、同じ基準を参照し融資を判断した時代です。もちろん一部例外的な動きをする金融機関もありましたが、大体の場合において似たような融資判断が行われるようになった結果、引用文にもある「金利」くらいでしか差別化できない金融機関が多く生まれてしまいました。

金利競争下では、資金余力の大きい金融機関ほど有利です。単純に言ってしまえば都市銀行>地方銀行>信用金庫>信用組合です。では銀行として規模が大きければ安泰か?と言われればそうでもありません。テクノロジーの発達により金融機関でなくとも、顧客の信用情報に基づいて、よりスピーディーに融資できる時代がもうそこまで来ています(もしくはすでに来ています)。業界そのものが大きく揺れている今、ただお金を貸してくれる「お金の仕入れ先」では、いずれ選ばれなくなるリスクがあります。

そこで叫ばれているのが、コンサルティング機能の強化です。

もちろん、そう簡単にはいかないでしょう。
それでもこれは、

これまでマニュアルによってガチガチに制限された商品を提供する「もの売り」的な融資から、自行の融資スタンスを踏まえつつも、取引先の状況に応じて相談に乗りながら融資を組み立てる「サービス」としての融資への転換

という点で、大きな意味があります。

業界・業種特有の物事に対するアドバイスは一朝一夕にできずとも、お金周り、例えば投資計画や事業計画、調達方法についてのアドバイスは彼らの得意とするところです。私の知るある信用金庫では、これまで取り組んでこなかった「短期の継続融資による資金繰り改善」によって、リスクを取ってでも取引先の経営を支えるための融資提案を積極的に行おうとしています。

根本の意識が変われば、あなたの企業へ金融機関の職員が持ってくる提案は、単に金利を下げたものでもお願いでもなく、企業の経営を助けるものになってくるかもしれません。

4.「メイン」を考える

「メインバンク」と聞いた時、読者の皆さんはどの様な金融機関の姿を思い浮かべるでしょうか?

単に、借入が一番多い金融機関=メインバンク
急に発生した資金ニーズに対して、即決で融資を決めてくれる金融機関
どこよりも低い金利で融資してくれる金融機関
経営の悩みを相談できる金融機関
そもそもメインバンクなんて思える金融機関は存在しない…
erc.

これまでお伝えしてきた様な時代の「メインバンク」とは、単なる「融資残高の多い先」という一般的なそれではありません。

なぜこの様なことを聞くのかと言えば、金融検査マニュアルの廃止に端を発するこれまで説明してきた2つの変化は、一つに「選ばれる金融機関」へとなることが目的としてあるからです。名実ともに「メインバンク」と呼べる取引を、金融機関としてもより増やしていきたいのです。

金融機関が変わろうとしているのと同様に、これら変化の恩恵を受けるためには企業も同様に変わっていくことが必要です。これまでの様に頑なに「金利」によって金融機関を横並びにしていては、事業性評価や親身になった職員からのサポートは望めません。業績のいい内はそれでも融資を受けられるかもしれませんが、窮地に陥った時も同様の対応を受けられる訳はありません。 企業としても、本当にリスクを取ってくれている、自社にとって有益なアドバイスをくれる金融機関をしっかり見極め、そうしたところへは多少の金利を払ってでも付き合いを深耕することが大切です。

5.まとめ

「テクノロジーの発達により金融機関でなくとも、顧客の信用情報に基づいて、よりスピーディーに融資できる時代」が来ている、という話をしました。現に、帝国データバンクのデータを基にした日経新聞の記事でも、2016年から2019年にかけての3年間で楽天銀行や住信SBIネット銀行といった「ネット銀行」をメインバンクとする企業数は1.6倍に増えていると取り上げられていました。

約150万社を対象とした同調査の結果は次の通りです。

大手銀行:19.82%
地方銀行:50.03%
信用金庫・信用組合:25.72%
ネット銀行:0.11%
その他:4.32%
(参照)日本経済新聞 2019年12月19日 「メインバンクはネット銀行」急増 新興・中小が採用

ネット銀行をはじめとする新興勢力の存在力の増大、既存銀行の統合、提携と金融機関を取り巻くニュースは日々絶えません。

それだけ金融時流は大きな変化の節目を迎えています。そうした金融機関とは切っても離せない中小企業にとって、こうした大きな流れをしっかりと把握しておくことは、自社の金融取引を円滑にし、企業成長につなげるためには欠かせないことです。

是非、そんな変わろうとしている金融機関に対して、企業側からも歩み寄り、「単なるお金の仕入れ先」「担保・保証・金利ありき」といった関係を脱し、より味方として金融機関を活用していく工夫をしてみてください。

本コラムが、読者の皆様が自社の金融機関との関係、取引の在り方について再考するきっかけとなりましたら幸いであります。

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【この記事を書いたコンサルタント】
財務支援部

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