財務トピックス(コンサルタントコラム)

【重要】「リース」が変わる(1) ~リースを使う社長が今考えるべき財務戦略~

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1.オペレーティング・リースの会計基準変更で、財務が傷んでしまう会社が急増する?

自動車や設備等を購入せず、賃貸借形式で自社に導入するリースの手法の一部について、国際会計基準の変更(=決算書への記載方法のルール変更)が発生しております。また、実は変更の悪影響が、日本国内の上場企業を中心とする企業の貸借対照表(B/S)に出てくる可能性があることを、皆さんはご存知でしょうか。本来リース取引は、賃貸借形式で企業が機械等の設備を導入する契約であるため、自社で利用していても所有権はリース会社等が持ち、貸借対照表(=企業の一時点での持ち物・調達構造が記載されているリスト)には記載されない場合がありました。

しかしリース資産は、実質的には他資産と同様に自社の占有資産として活用するため、国際会計基準では形式のいかんに関係なく原則として「リース資産」という名目で貸借対照表に記載をするように義務付けされ、企業実態が見える財務諸表作りが提起されています。そして、続いて日本でも上場企業、段階的には非上場企業の決算書でも、リース資産が財務諸表に掲載される可能性が高まっているのです。
 

「今まで実質的に所有資産と同じように使っていたリース資産を、今後は決算書に載せることが義務付けされた。それが、一体何の問題になるのか。特に会社の実態が変わるわけではないし、今までもリース会社とやり取りするために、自社で車や機械のリースの契約管理はしていたからね。」
 

そうお考えの皆様、ちょっとお待ちください。おっしゃる通り、今回の流れによって変わるのは決算書類という書面の内容だけであり、実態の経営に変更は起きず、むしろ決算書でクリアに実態が把握できるようになるという点で良い取組みなのかもしれません。しかし会計基準変更により、今まで決算書中心に貴社の財務を判断していた金融機関の取引方針が、ガラリと変わる危険性をはらんでいることは、知っておかねばなりません。
 

・そもそもリースってどんな種類があるのか?

・リースの会計基準が変わると金融機関の方針が変わるとは、どういうこと?

・リースの会計基準が変わる前に、社長がしておくべき「財務対策」とは?

今回はこの2つのテーマに関して、ご紹介していきたいと思います。

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2.そもそも「リースの会計基準変更」ってどんな内容?

まず今回の会計基準変更における具体的な変更点や、リースには大別して「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の2種類が存在しているという点に関して、簡単に確認しておきましょう。

 
一言にまとめても、対象物件や期間・所有権移転のあるなし等の条件により、会計の世界でも取り扱いが変わるのがリースです。では、代表的な2つのリース取引に関して以下の表をご覧ください。
 

【表1】2つの代表的なリース取引

2-1. ファイナンス・リース

まずはファイナンス・リースです。ファイナンス・リースは、実質的にはリース対象物件を割賦契約(分割払い)で購入するのとさほど変わらないような手法で、リース特有の「損害保険料・固定資産税」等の期中コストを、リース料のみに変換できるという管理メリットを享受することが可能です。
 

(例1)株式会社Aは、工場で使用するマシン(法定耐用年数7年・金額20百万円)を、購入ではなくリースで導入することに決定した。リース会社の株式会社Bは7年間・金利1%・毎月の割賦払い(計84回)でファイナンス・リース契約を締結し、当該マシンを購入したのちAに貸与した。
 

上記(例1)なら、株式会社Aは通常なら20百万円を一括でマシン製造会社に支払いしなければならないところ、株式会社Bとファイナンス・リース契約を結ぶことで、代わりにBが機械を購入しAに貸与してくれる上、Bに毎月の割賦のリース料さえ支払いすれば、煩わしい固定資産税や保険料などの支払い管理は所有権を持つBが対応してくれる(※代わりに分割手数料のように金利が割増される)という契約です。マシンは法定耐用年数が7年なので、支払いを分割できる期間は基本的に7年程度であり、株式会社Aはその期間原則としてマシンを破棄することなく使い切ることを想定するため「耐用年数の範囲内でマシンの支払いが完了する」という仕組みとなり、結果非常にシンプルに導入することが可能です。

また、今回記事のポイントとしている「貸借対照表への記載」という観点でも、ファイナンス・リースはシンプルであり、基本的には従来から貸借対照表に自社資産(リース資産)として計上、それに対する負債(リース負債)も計上するように義務付けられています。
 

【表2】ファイナンス・リース活用時の貸借対照表イメージ(単位:百万円)



たとえば、(例1)は20百万円でファイナンス・リースを活用してマシンを導入している例でしたが、反対側で株式会社Bとはその20百万円相当を7年間で返済していくという「リース負債」の契約をしたという動きでした。それがまさに【表2】の黄色部分で貸借対照表に明記されます。工作機械、重機、実験装置等、今も幅広にファイナンス・リースは活用されており、一括で高額の資金の負担ができず、金融機関の融資枠にも限りがある中堅・中小企業を助ける1つの有効手段となっています。

【POINT】ファイナンス・リースは金融機関からの借入に似た処理!
 

2-2. オペレーティング・リース

一方のオペレーティング・リースも確認しましょう。オペ・リースとも略されるこの手法は、自動車の「残価設定型クレジット(残クレ)」によって、今や個人でも幅広く同じような仕組みが使われています。こちらも例を使って簡単に説明していきます。

(例2)株式会社Cは、工場で使用するマシン(耐用年数7年・金額20百万円)を、購入ではなくオペレーティング・リースによって導入することにした。リース会社Bによると、当該マシンは5年後の価値が40%残る、つまり8百万円の「残価」が付くと見積もっている。そこでBは5年後にマシンを

「(1)Cが買取り(2)Cが再リース(3)Bが回収」といった複数の選択肢を残した状態で、Cと期間5年・金額60%の12百万円・金利1%のオペレーティング・リース契約を結び、マシンを仕入れてCに貸与した。

(例1)のファイナンス・リースに比べると、ぱっと見ではなんだか面倒なことをしているように見えますが、まとめると以下のようになります。
 

【図1】オペレーティング・リースのメリットまとめ


 

【図1】を確認しましょう。図の通り、まずオペレーティング・リースが活用できる対象資産は、比較的中古市場が成熟している自動車・工業用マシン(プレス機や工作機械)などが当てはまり、新品時から数年間普通に活用したとしても、数年後に一定の価値で再販しやすいものであることが前提となります。(例2)で言えば、マシンは5年間普通に使用した場合、一般的には8百万円程度の「残価」が中古相場でつくことが分かっているため、リース会社Bは

5年後にマシンを回収できれば、5年間中古再販価格を差し引いた価格でリースしても、元が取れる

という考え方が可能になります。一方リースをしたい株式会社Cも

5年後どうするかは検討しなければならないが、5年間は購入・ファイナンス・リースよりも安く使える

というメリットが発生するため、双方”おいしく”契約を結ぶことが可能になります。特にCは、ファイナンス・リースで導入するよりもさらに毎月のリース料が抑え込めることを考えると、5年間の短期~中期的な使用だけ考えた場合はこれほど資金繰りにとって嬉しい契約もないのです。
 

さらに、オペレーティング・リースは上記の説明の通り、長期的に貸与を受けて自社の占有資産として活用する側面を持つファイナンス・リースに比べると5年程度の短期~中期的に貸与を受けて占有資産として活用するという意味合いを持つ契約のため、これまでは貸借対照表への記載が必要ありませんでした。(=オフ・バランスが可能)
 

【表3】オペレーティング・リース活用時の貸借対照表イメージ(単位:百万円)

【表3】は、オペレーティング・リースの手法で20百万円分のマシンを導入した株式会社Cの貸借対照表イメージです。オペレーティング・リースは前述の通り資産額全てをリースにしない性質はあるものの、やはり12百万円分はリース資産として「簿価」が発生し、見合いとして「リース負債12百万円」、つまり企業が返済しなければならない有利子負債が発生します。しかし上記の通り、オペレーティング・リースは所有権がなく、ファイナンス・リースよりも貸与されている側面が強い資産として、掲載しなくても良い(※上場企業の有価証券報告書の場合は、別紙にリース使用金額を記載する必要はある)ため、結果【表3】という、少し実態からは離れた貸借対照表が完成するのです。

そのためCには、Bからリース負債を受けている状態だが、貸借対照表にそのことを記載しなくてもよい、つまり「有利子負債を少なく見せられる(≒貸借対照表を小さくすることができる)」というメリットが生まれます。実は、これがオペレーティング・リースの最大のメリットであり、製造業や運送・タクシー業ではオペレーティング・リースで機械・トラック・タクシーを大量に導入しているケースが多く見られていました。
 

3.オペレーティング・リースも実態に合わせて掲載を義務付けへ

しかし国際会計基準において、企業の実態を「隠す」ことができるオペレーティング・リースに関して、実態としてはファイナンス・リース同様に自社の占有資産となるのは変わりないことを鑑み、貸借対照表への原則記載を義務付けすることになりました。企業の実態を把握する上ではたしかに新たな取り組みにより、実態に即した貸借対照表作りが可能になるものの、リースを多用してきた会社にとっては大きな痛手となってしまいます。というのも…。

さて、長文となりましたので今回はここまで。次回はリースが表面化することによって、企業がどのような「痛手」を受けるのかを具体的に公開します。また、そのための「対策」とは…。お楽しみに。

次回の内容はこちらhttps://www.funai-finance.com/topics/190530

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【この記事を書いたコンサルタント】
財務支援部

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