財務トピックス(コンサルタントコラム)

半年で5億の経営者保証を解除した社長の財務戦略!

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秘訣はたった1冊の「決算説明資料」。翌年の大型投資を可能にした最善の「見せ方」とは。

 
ここ5年ほどの間でまず話題に挙がる「現代の事業承継のしがらみとは?」と聞けば、経営者保証に関する問題と答える方が多いのではないでしょうか。
 
経営者保証は中小企業の資金調達を円滑にする補完機能としてたいへん重要な制度でありながら、気づけば社長の保証額が数億円にのぼっており「実際にはこんな金額保証できないぞ!」と不安を抱える要因となってしまうことがあります。
 
後継者としても、満を持して社の看板を背負う立場になるのに、いきなり数億円の保証を背負うことになると聞くと、どんな豪傑でも及び腰になってしまうでしょう。
 
では、ここで

「わずか半年で5億円もの経営者保証を解除した社長がいる」
「しかも、今までの決算書の”見せ方と借り方”を変えただけで」

 
という話があるとしたら、いかがでしょうか。
これは、とある成功企業が事業承継や翌年の大型投資を見据えて動いた、本当にあった財務戦略のお話です。
 

〇目次

 
1.秘訣①:社長は「短期・中期・長期」のゴールを設けた

2.秘訣②:社長は自社に隠れる「真の価値」を見出した

3.まとめ:自社に眠りしお宝探しをするために
 

1.秘訣①:社長は「短期・中期・長期」のゴールを設けた

 
「経営者保証を解除してもらいたい」と思う背景には、必ず何かの重要な理由が存在します。
長期的な事業承継のための準備という理由もあるかと思いますが、それだけを理由に経営者保証を解除してくれと、金融機関をいたずらにあおる行為は得策とは言えません。
 
むしろ、企業のお金周りをサポートしてくれる金融機関の存在は決して無下にするべきではなく、互いが最も良い形で膝を突き合わせて取引を目指すべきです。
 
前述でご紹介したある企業Aの社長はこうした事情をしっかりと理解していたために、漠然と「経営者保証を外したい!」と考えるだけではなく、
 
・そもそも、経営者保証はどのような仕組みなのか
・自社は短期・中期・長期の目線で「なぜ」経営者保証を外す必要があるのか
・自社は、経営者保証を外せるだけの素地が整っているのか

 
という部分を、まずは徹底的に詰めることから始めました。
 
企業Aは、翌年以降に新規事業で億単位の資金が必要となる設備投資の計画があり、融資の額と見合って経営者保証の金額が伸びてしまうのは避けたい状況にありました。
 
また、経営者保証解除を認めてもらうレベルの企業となることで、大きな投資に打って出るだけの「心理的な裏付け」ができることも重要でした。
そして何より、社長は長きを共にした会社を今後も継続するために、長期的にこの会社を承継できるだけの素地を整備する必要があることに気づいていました。
投資による短期的なさらなる成長、そしてそれを長期につないでいくために。
金融機関もこうした社長の根拠ある話に、嫌がるどころかむしろメインバンクを筆頭に積極的に応じることとなったのです。
 

2.秘訣②:社長は自社に隠れる「真の価値」を見出した

 
企業Aの社長は以前からしっかり実態をつかむことが重要と考えていましたが、従業員も増え年商も拡大するなかで情報量が多くなり、現場の情報を具体的に把握することが難しくなる感覚がありました。企業実態を数字で具体的に把握する1つの有効なツールは決算書・試算表ですが、専門家である銀行員、会計事務所の先生からは現場レベルのアドバイスまでは得ることが難しいものです。
そこで社長は一念発起し、決算書・試算表の数字を緻密に読み込むのではなく「重要な5つの分析項目」だけつかんで、明日から現場で活用できる環境を作り出すことにしました。
 
【社長が重視した財務分析の「重要な5つの指標」】
 
①資金調達の構造:有利子負債、経常運転資金、要収益返済借入金
②企業の収益力 :キャッシュフロー、債務償還年数
③B/Sのバランス:自己資本比率、借入依存度
④P/Lの利益水準:粗利、営業利益、経常利益…
⑤資金繰りの構造:年間の借入返済額、返済後キャッシュフロー

 
税理士・会計士資格を持つ先生が作る決算書を読み解こうとするのは、はじめは何となく気後れしてしまうものですが、経営者は決算を「作る」のではなく「使う・見せる」立場の人間です。

社長は5つの指標で自社がどのような状況かを把握できたことはもちろん、①~⑤の指標をシンプルに把握していくなかで、
 
・実は、実質無借金経営を目指せるようなお金の借り方を目指せる会社だった
・実は、もっと早く返済を進めてしまっても資金が回る会社だった
・実は、売上を伸ばすためにあと3億円ならすぐに融資を受けても大丈夫と言える会社だった
・実は、○○事業を伸ばすとお金がさらに溜まって年商が拡大できる可能性がある会社だった

 
と、紙の束でしかなかった決算書や試算表から、次々に経営のヒントを得ることに成功しました。
 

「この感覚を、自社の決算を最も見ているはずの金融機関にも説明してみるか…?」

 
今までもきちんと金融機関に決算書を提出していた社長でしたが、当然ながら彼らも毎日自社のことを見にくる存在ではなく、週1回、少ないと月1回程度しか来社しない組織です。
社長は今まで要求されたものを指示通りに提出するだけだったスタンスを変え、自社を最も知るからこそ見えた展望・方針・現状も交え、金融機関と長めの時間を取り、決算書と合わせて上場企業のIRのような決算報告書(決算レビュー)を提出しました。
金融機関も融資、決算分析のプロ。
今までも「お金を返済できる企業なのか」という目線での分析はしてもらっていたはずですが、報告書を見た彼らの表情は非常に前向きなもの。
 
「なるほど。だからもう少し融資額を伸ばせば、売上を伸ばしていけるのですね」
「社長の方針通りに進むために、こんなことを取り組んでいるのですね」
 
それはさながら、意図せず金融機関が事業性評価のヒントを共有する場に変化し、社長は企業の真の価値を理解してもらったことで、好条件での融資、自社にマッチした借り方や成長戦略を実現したのです。
 

3.まとめ:自社に眠りしお宝探しをするために

 
今回は、わずか半年間で経営者保証を全て解除できた社長が、いったい半年間でどのようなことに取り組んできたのかという事例を交えながら、そのポイントに関してお伝えしてきました。
今回のコラムでは、途中細かな分析のお話や金融機関とのやり取り、その内情に関しても少しお伝えしてきましたが、これらはあくまで1つの手段にすぎません。
 
最も重要なのは「売上・利益を伸ばしていくこと」というゴールに向かうことであり、そのために手法をいかに高速化するかということです。
そして、そのヒント・お宝は既に自社の決算書の中身に眠っており、これを見せる・使えるかが次の成長戦略につながるかもしれないのです。
 
ぜひ、まずは自社の決算書・試算表を今一度めくってみることから初めてみてはいかがでしょうか。

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【この記事を書いたコンサルタント】
財務支援部

船井総研の財務コンサルティングは、企業の業績アップを「資金と管理面」からバックアップする実行型コンサルティングです。
財務指標をただ算出してその上下を評価するのではなく、それらの指標をどのように経営判断、投資判断材料とするのか、持続的な成長を支える為に必要な資金調達額を最大にするための施策を検討、実行します。
攻めの投資を実現する際に最も大切なことは、その1期のみ最大の成果を出せることではなく、持続的に最大限の成長を継続することです。
それを資金面から実現する戦略をデザインします。

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