財務トピックス(コンサルタントコラム)

【事例で学ぶ】設備資金を借りながら、自己資本を倍にする?

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〇まえがき

工場新設、本社建替、新規出店、人材投資、システム投資、M&A…。

経営においては、投資を行わずしての事業拡大はなく、ときに金額が数千万円~数億円にも及ぶこともあるでしょう。近年はクラウド化やIT化のための設備投資が非常に旺盛で、これまで以上に投資にかかるコストが大きくなってきているという話も聞かれます。
また株式市場からの調達手法や、豊富な資金力を持たない非上場企業では、投資に際して「金融機関からの融資」は常に検討される手段であり、必然と金融機関と膝を突き合わせ、投資の相談をすることになるかと思います。

日常的に必要な「運転資金」ならばいつも借入もしているし、付き合いしている金融機関にもお願いしやすいものですが、これが設備投資ともなれば、それは1回きりの特別な案件です。

・何年の期間で、総額のいくらを借入で補うのが正解か。
・仮に投資が失敗した場合、残った融資を返済できるだけの資金力は蓄えてあるのか。
・そもそも、金融機関はこの投資話に乗ってくれるだろうか。
・設備資金を借りてしまったら、融資枠が埋まり、追加で運転資金がお願いできないのではないか。

上記のような普段は気にならないような要素が、頭の中を回り始めるのではないでしょうか。

「大きな投資に打って出ることで、事業を効率よく拡大していきたい」一方で、
「今後もお金に困らないかどうか、しっかり今の足場も固めておきたい」。

今回はこうしたどんな規模・業種の企業にもある設備投資の悩みについて、企業の事例を見ながら最善の一手、そして「設備資金を借りながら、自己資本を成長させた成功企業」の事例を考えたいと思います。

〇目次

1.【失敗事例】「年商病」にかかった社長の連続投資に金融機関がビックリ?

2.【成功事例】自社を多面的に知り、投資と成長両方に成功した社長

3.【まとめ】投資は「結果」ではなく「足元」のチェックから

1.【失敗事例】「年商病」にかかった社長の放漫投資に金融機関がビックリ?

ある企業の話をする際には、まず「売上〇〇億のメーカーです」や「年間で〇〇億売っている不動産会社です」といった、決算期の売上が語られることが多くはないでしょうか。人間、背が高い方が効率よく高い木になっている果実を食べられるように、企業も一定規模を持つことで、小企業ではできないようなプロモーション・コラボ・人材採用等が達成できます。たとえば、ある個人の名刺1枚では、コンサルティングは到底受注できないとしても「内資系企業では最大のコンサルティング会社、船井総合研究所に属する…」と規模が”看板“となることで、やりがいある仕事を受けることも可能になります。

年商は企業の看板、ときに働く従業員の満足度・やりがいにも影響する…。まぎれもない事実ですが、ここで経営者が「あること」を忘れて年商拡大にだけこだわると、企業は取り返しのつかないトラブルに陥ることを、忘れてはいけません。

ある企業Aは地元で「負けなし」の不動産販売業者で、ここ数年で住宅・ビルなどの年間販売棟数が一気に2倍まで拡大していました。年商が拡大したことで大手デベロッパーの目に留まり、協働ブランド開発にも着手。社長の報酬・従業員の給料もうなぎ上りに良くなっていました。
しかし、地元シェアで圧倒的上位につけたことで、以降は毎期利益こそ出るものの、そう簡単に住宅やマンション、ビルの需要が変わることもなく、年商も横ばい。それどころか近年の人口減少・都市部への流入も相まって、販売数は伸び悩みの時期を経験します。

「ここから年商100億円・200億円と販売を伸ばしていくには、新規マーケットに出ていくしかない。地元での十分な実績を基に、ここから首都圏への攻勢をかける!」。うなぎ上りの年商拡大を経験してきた社長にとって、ここで鈍化して地場のいち不動産屋で終わってしまうことは、何よりも耐えがたいこと。ここ数年、次第に仕入れ力も上がって仕入れ資金を潤沢に調達できる環境もできたため、ここで一気に社員採用、そして大型不動産の開発プロジェクトに乗り出したのです。

結果、プロジェクトは一定の販売実績を残し、年商は再び急拡大を始めます。これは良いと味を占めた社長は次々に他業者が手を出せない土地・建物の開発を実施し、また年商は一気に拡大し…と、とにかく仕入れと資金調達に奔走する毎日となるのですが…そんな日々は、あるメインバンクの一言で急に終わりを迎えます。

「社長。今回の融資は総合的判断により、少し時期を置いて、また後日ご相談を承れればと…。」

いつもは気の良いメインバンクの担当者が、今日は気まずそうな顔で上司の課長と2人来社し、うつむき加減に発したその言葉で、社長はようやくはっと我に帰ります。そう、株式会社Aは今や年商50億円を突破する企業に成長していた一方、

・急な人件費投資で固定費が急増しており、売上があっても利益が残らなくなってしまった
・支店、支部、部署などの新設で細分化されたことで、人員の労働効率が下がっていた
・在庫を仕入れるための融資を多用し過ぎて、メインバンクですら及び腰になってしまった
・また「借りられたら何でも良い」とばかりに、金融機関との条件交渉をないがしろにしていた
・売上ばかりに注力していたことで、月末の資金残高がどうなっていたかさえ、把握していなかった

と、実は足元が「ガタガタ」の状態に陥っていたのです。
低位安定でいつも同じことだけ行う安定企業が正しいのではなく、株式会社Aのように、旺盛な投資を行うことで雇用を生み出し、社会に貢献する企業は魅力的です。ただしAの社長は「年商病」にかかったことにより、大きな絵を描こうと走り出したのですが、それを支える屋台骨(金融機関、社内)がしっかりしているのかを確認することをすっかり忘れてしまっていたのです。

投資はまず、「結果」ではなく「足元」の分析から。1つの教訓となれば幸いです。

2.【成功事例】自社を多面的に知り、投資と成長両方に成功した社長

一方、同じように年商50億円レベルの事業で資金需要も常に発生する業態を経営しながらも、財務を傷めることなく金融機関と堅実に取引を続け、数億円の投資をすぐに実現できるだけの企業を作り上げた社長の事例も紹介します。成功する企業の社長は、一体何が違うのでしょうか。

企業Bも、県内ではトップクラスのシェアを誇る石油・太陽光・プロパンガスなど総合エネルギーの販売業者であり、地場ではテレビCMも流れるような有名企業ですが、特に冬季は灯油の配送のための期間職員採用や仕入れ資金が大きく膨らみ、一時的に数億円レベルの運転資金を借りないと資金繰りが回らない構造をしていました。またエネルギーという、どうしても装置がないと事業を拡大できない業種柄、数年おきに既存設備の入替や新規設備への投資が必要となっていました。

「投資なくして、当社の事業成長はない。でも言われるがまま、何となく資金調達を行うのでは、いずれ融資が続かなくなってしまう可能性もある。まず、自社の現状把握から行おう」。既に県内有数の企業ではあったものの、融資をきちんと受けられる環境が続くことこそが企業の安定につながると理解していた社長は、

・経営に忙しい社長1人ではなく財務担当を置き、日々の資金管理や銀行交渉を任せられる環境を醸成
・自社の融資が仕入れに使われているのか、設備資金なのかを確認し、借り方が適切かをもう1度銀行と相談
・変動の大きな仕入れの金額を試算表で毎月確認し、どの程度資金をもって経営すれば効率的かを把握
・現在所有する不動産の担保価値を精査し、資金調達の余力がどの程度あるかを確認

と、精力的に財務担当部長と「自社の”いま”」を知ることに注力しました。
その結果、過去数年間の試算表を有効な「データベース化」することに成功した社長は効率的に資金調達ができるようになり、今までは理解できなかった銀行担当者からの要求も、何を意図しており、どのように付き合うべきかが晴れやかに見えるようになりました。また、財務担当者を社内に用意したことで、社長が財務の仕事で手一杯にならず、企業Bの地盤をきっちり固めることができました。

結果、現在企業Bは会社のシステム更新費用を、複数の銀行マンから好条件で提案を受けることに成功しており、さらには10年後の事業承継に向けて自己資本を蓄え、経営者保証なしでの融資取引も達成したのです。

前述の企業Aとは業種が違うものの、どちらも融資なくして企業継続できない業態。ポイントは年商という1つの要素だけにとらわれず、多面的に自社をとらえ、社員も巻き込んで取り組んだ姿勢ではないでしょうか。こちらも成功事例として、読者の皆様の何らかの気づきになれば幸いです。

3.【まとめ】投資は「結果」ではなく「足元」のチェックから

今回から、シリーズであらゆる「投資と融資」についてのコラムを配信していくなかで、非上場企業にとっての最善な投資と融資とは何かについて、お伝えしていきます。今回はまず【失敗事例】【成功事例】として、年商の罠に引っかかった経営者の事例、逆に多面的な目線をもって投資を成功させた経営者の事例を紹介し、夢いっぱいの投資を行うためにも、まずは現実的に足元の財務内容・投資効果・過去の決算状況を見てほしいという話をしました。

次回は、投資にあたって融資を受ける際には必ずしなければならない「融資条件の吟味」に関して、より具体的な内容をお伝えできればと思いますので、お楽しみに。

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【この記事を書いたコンサルタント】
財務支援部

船井総研の財務コンサルティングは、企業の業績アップを「資金と管理面」からバックアップする実行型コンサルティングです。
財務指標をただ算出してその上下を評価するのではなく、それらの指標をどのように経営判断、投資判断材料とするのか、持続的な成長を支える為に必要な資金調達額を最大にするための施策を検討、実行します。
攻めの投資を実現する際に最も大切なことは、その1期のみ最大の成果を出せることではなく、持続的に最大限の成長を継続することです。
それを資金面から実現する戦略をデザインします。

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