財務トピックス(コンサルタントコラム)

事例で読み解く2021年の「融資」(1)貸し剥がしの影に迫られぬために

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2020年、世界はコロナウイルスによって姿を変え、中小企業を取り巻く「融資」の環境も激変しました。
無利子・無担保の精度融資という「強い痛み止め」が効く現在、一見中小企業のおカネに関する混乱は収まったように見えますが、実は全国の企業でいま起き始めている「あること」を知っておかないと、変化する2021年の融資の時流についていけなくなる危険性が高まっています。

今回はシリーズで、来年も企業が正しく融資とお付き合いするために学んでおくべき事例やノウハウをお伝えします。


 
唐突ですが銀行・信用金庫と取引をするなかで、コロナ市況発生後以下のようなことはないでしょうか。

・コロナ市況の発生後、
□訪問回数が急減している金融機関がある
□いつもと異なる資料を要求してきた金融機関がある
□いわゆる「コロナ融資」で融資取引をはじめた金融機関がある
□いつもよりも早いタイミングで融資枠の継続の話をしてきた
□いつも来ている融資担当者が、急遽交代になった
□すぐに制度融資を使ってくださいと営業に来たため、借りられるだけ借りた
□融資担当は来るが、営業課長や支店長が来なくなった

上記に1つでもチェックが付いた企業では、今からお伝えをする事例に関して、特に「自分のことかもしれない」と意識して確認するようにしてください。
というのも、これらコロナ禍のなかで起きた金融機関とのやり取りが、今後の融資の貸し渋りや貸し剥がしの遠因となるかもしれないからです。

これらは一見「金融機関もコロナだから大変だな」と感じるだけの日常取引の一部のようですが、実は金融機関が貴社に対して出しているアラームサインの可能性があるため、1つ1つ目を配って「うちの融資は大丈夫か?」ということを確認しなければなりません。

たとえば、船井総合研究所の金融・財務グループでは実際に以下のような事例が相談として寄せられています。

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■「融資を出してくれている」ように見える? 実は喜べない広義の貸し剥がし事例

ある年商30億円規模の分譲住宅販売会社(A社)では、事業成長に伴って既に10以上の金融機関と融資取引ができるまでになっていました。
なかには誰もが知る都市銀行や政府系金融機関もあり、社長は「いよいようちも中堅企業の仲間入りをしてきた」と成長を実感していました。

一方で今年2月、当社周辺地区でもコロナウイルス罹患者が発生。来店型の商談を行うスタイルをとっていた当社にとって、コロナによる来店停止は業績に一定のマイナスを与えたものの、住宅販売業は日用品売買と異なり販売までのスパンが長い商売です。
ひとまずコロナ前に受注した住宅を無事に完工・販売させれば、何とか今年も売上を確保できそうな感覚は持っていました。

また、コロナ市況になったことで融資を受ける金融機関、とりわけ長年メインバンクとして付き合う地銀融資担当が、無利子・無担保の制度融資のパンフレットを持ってA社に飛んできました。
担当は長年融資取引をしてきたA社さんが心配で、との一言を添えながら、今すぐ融資申し込みの準備を進められると社長に進言。
社長も「やはり日頃から多くの銀行と付き合っておくのは大事だった」とその心意気に感謝しつつ、今後のマイナスに備えて制度融資を受けることにしました。

たとえ秋口から春先のマイナスがじわじわと出たとしても、当面の資金繰りにはめどが立ったA社。
まさに金融取引の成功事例とも思えるこの話には、実は恐ろしい「続きの話」があったのです。

それは、当該のメインバンクで過去に受けていた不動産購入用の短期融資が、そろそろ期日を迎えて延長手続きだという頃に発生しました。

「社長。毎年の短期融資の継続ですが、よかったら枠が拡大している”コロナ融資”を追加調達して、無利子・無担保の借入に変えておきませんか。
うちのプロパー融資だとどうしても金利が高いですし、今貴社の試算表を見ると春先に借りたお金が余っているように見えます。
不要になった元々のプロパー融資は、コロナ融資を借りた後に、タイミングを見ながら返済いただければ構いません」

社長は毎年恒例のように継続していた短期融資の継続書類を持ってこなかった担当に対して、少し違和感があったのですが、話の内容は特に自社にデメリットがあるように思えません。
むしろ数年間1円の返済をすることなく、かつ金利も補填してもらえる制度融資をさらに許容してもらえるならば、それもありと感じる内容でした。

しかしもうお気づきの人もいるかもしれませんが、これがA社に忍び寄った広義の貸し剥がしです。

というのも、このメインバンクの提案は、

・企業が目指すべき制度に頼らない民間プロパー融資が、(実質的に)制度融資に置き換わってしまう
・今後、またプロパー融資を出してくれるかどうかの確約が一切ない
・つまりプロパー融資枠を狭め、どんな企業でも借りられる制度融資枠に資金繰りが依存する

という、実は企業の資金繰り体制を弱めてしまう内容であり、次に危機的状況に陥った際にもう頼れる融資枠がどこにもない状況を生む危険性がありました。
もちろん、メインバンクも融資のプロであり悪意ある提案を行ったわけではないと思います。
ただ、自社でこうしたデメリットを理解していなかったら、いつの間にか融資条件が劣悪になっていた…という状況が起きかねなかったのです。

なお、A社の社長は事前に融資に関する知識があり、メインバンク支店長とも日頃から懇意にしていたため、結果的には担当ではなく支店長との話し合いを行い、例年通りに融資継続を実現することができました。

■融資との付き合いは、一面的な要素にあらず

いかがでしたでしょうか。
「金利が安いこと」や「希望通りの金額を出してもらえること」が重要だとされがちな融資交渉ですが、実はその考え方や知っておくべき知識は多岐にわたり、今回のA社の事例のような「プロパー融資と制度融資の関係性」等も重要な要素として知識を蓄えておかねばなりません。

また、日頃金融機関との面談実績が少ない企業ほど知識を蓄えておらず、金融機関もいざという時に機動力を持って自社を救おうとはしてくれなくなってしまいます。
そうならないためにも、正しい情報と言葉を使って、金融機関の意図や時流を理解したWIN-WINの関係を構築することが重要です。

まずは、取引金融機関ごとの現在の関係性に関して、今一度頭で整理することから始めてみてはいかがでしょうか。
次回は実際に融資交渉を行う際、当たり前だけれども忘れがちな「融資交渉5つのポイント」に関して、お伝えしたいと思います。



◎次回のコラムはこちらから

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【この記事を書いたコンサルタント】
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