財務トピックス(コンサルタントコラム)

社長の経営判断が遅れるリスクを防ぐ 取り組むべき数字の管理~インボイス対応

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インフレなど会社の数字に関する環境が厳しくなっていることから「経営における会計財務データの重要度」が高まっています。さらにインボイス制度が始まったことで、会計財務データの作成にかかる工数が大幅に増えることが予想されています。
デジタルを活用した会計財務の仕組み作りの重要性と効果を解説します。
事例は住宅業界ですが全ての業界に共通することです。会計財務データがより経営に活用できるようになり、かつ作成にかかる工数を大幅に削減することが可能です。

高まる会計・財務のデータの重要度

令和に入り水面下で起きていたことが、コロナ以降加速しています。いま経営の現場では以下の問題が起きています。

地方人口減の本格化(2030年には1200万人減)
業界成長率の鈍化(多くの業界が縮小トレンド)
景気後退(スタグフレーションで加速)
採用費・人件費高騰・原価高騰・定着率低下
デジタル格差の拡大(業界外からの急成長企業の出現)

このような現状に多くの業界が苦労しており、地域一番企業ですら成長が鈍化しています。ここで住宅業界を取り巻く環境を整理します。

・売上減
少受注契約数や集客数自体が減っているため、売上はどんどん減少傾向にあります。

・利益低下
売上が減っていますが、物の値段は上がっています。多くの企業では価格転嫁ができていないため、利益も低下しています。

・借入増加
コロナ禍などいざという時の備えや、売上・利益が落ちていることで手元の現預金を厚くするための借入が増えています。

・資金繰り悪化
利益が低下し借入が増えると当然、返済額が増えます。そうなると資金繰りが悪化していきます。

価格の見直し▽予算・経費の見直し▽借入の見直し▽資金繰り予定の把握をしていくことが必須になりますが、実行するには工事別の採算▽予算や経費の内訳▽借入状況▽入出金予定といった情報やデータが必要です。
住宅業界を含め、さまざまな業界で会計・財務のデータの重要度が急激に高まっています。


しかし、多くの会社ではこれらのデータがない、あったとしても見たい時に見られる状況にないのが現状です。これらのデータはどの会社も決算書を作る上で入力しているはずですが、

①入力している情報が足りない
②データ化できていない
③データを整理・集計できていない

3つの原因によって上手に活用することができていないのです。
また、住宅会社の月次決算の状況を見ていくと、

・毎月の試算表ができるのが遅く、業績を確認するまでに1ヶ月以上かかる
・売上や原価の計上基準が曖昧で、決算を締めてみないと年間の業績把握ができない
・税理士へ記帳代行しており、社内で会計データを見られない

といったケースから「経営状況を把握しようとしてもできない、遅い」事態が起きています。
そのため、適正な値上げができない▽経費の無駄遣いに気づかない▽決算対策ができない▽資金繰りが読めない▽借入がスムーズに進まない▽人材や設備への投資判断ができないといったことに繋がり、結果として利益が残りにくく業績も上がらない現状に陥っているのです。

アナログ経理ではインボイス制度への対応難しく

経営状況の把握が遅くなってしまう大きな要因は、多くの会社で経理の仕組みがアナログな点です。
これまでは経理の仕組みがアナログでも問題はありませんでした。しかし、今後大きく影響してくるのがインボイス制度です。


インボイス制度を改めておさらいします。
インボイス制度は、仕入税額控除を受けるための制度です。現状は預かった消費税から支払った消費税の差額分を税金として納めていました。
インボイス制度では、預かった消費税は変わりませんが、支払った消費税はインボイスの要件を満たしているものしか認められません。要件を満たしていなければ、支払う税金が増えてしまいます。
インボイス制度に対応するため、企業は1~4の準備をする必要があります。

1、事業者登録 適格請求書発行事業者の登録
2、適格請求書、領収書の発行 請求書や領収書を要件に合わせて様式を変更し発行する
3、適格請求書、領収書の保管 売り手・買い手双方の立場で適格請求書や領収書を保管する
4、取引先調査 取引先の適格請求書や領収書の対応状況を調査し、未対応先への対応方法を決める


23年10月にスタートした制度ですが、経過措置が取られています。10月までは仕入税額控除が免税事業者の場合100%控除されていました。23年10月~26年10月の3年間はそれが80%、26年10月~29年の10月の3年間は50%が控除として認められます。
この猶予のための経過措置によって、実は面倒な作業が発生します。経過措置期間に必要な対応があるのです。現状は記帳の際、日付・金額・取引先・取引内容・税区分(①標準税率10%②軽減税率8%)5つが必要でした。
インボイス開始後の経過措置期間には、税区分が6つに分かれるのです(下図参照)。つまり税区分が2つの区分から6つの区分へと3倍に増えます。


これまでのようなアナログな経理のやり方で記帳していては、非常に手間がかかります。
経営における会計、財務のデータポジションが変化しています。縦軸に会計データの重要度、横軸に会計データを作成する工数を見ていくと、これまでは重要度はそこまで高くなく、少ない工数で行うことができました。


しかし、これからは経営環境の変化によって会計データの重要度が高まり、データ活用の強化が必要になる一方、インボイス制度が始まったことでデータの作成や活用にかかる工数は増えていきます。人力での対応は限界にきています。
デジタル活用で得られる効果とは
会計・財務データをデジタル活用して効率的に作成し、データ活用をして業績を伸ばしている会社の事例を紹介します。
住宅会社のK社では、デジタルを活用した会計・財務の仕組みを取り入れたことによって、以下の効果が生まれました。

①見たいデータがいつでも見られるようになった

②入力プロセスが一気通貫されて二重入力がなくなった

③AIやOCR機能により入力作業自体が自動化された

効果①

例えば工事別の収支実績について、受注日や完成日▽請負金額▽売上金額▽入金額▽原価などを一覧で見られるようになったことで、値上げ額や仕入れ値に関して、しっかり利益が出る適正な値段なのか常にチェックできるようになりました。

また収支見込では、採算が取れそうな工事なのか、追加工事が出た場合にどう対応していくかを把握することができるようになりました。

さらに、支払査定内訳では、取引先ごとへの支払い額や期日、担当者などがすぐに把握できるため、資金繰りが読みやすくなったり、適正な支払か確認しやすくなったり、取引先に対しての価格交渉も数字をベースにしやくなりました。

効果②

住宅会社の業務のよくある流れでは、まず見積を作って、受注登録→予算作成→仕入処理→原価集計→支払処理→請求処理ですが、これらをそれぞれ別のファイルやシステムで行っています。
受注や予算はエクセルや業務システム、仕入処理以下はエクセルや会計システムを使用するといったようにです。

これらが連携していないことで二重入力が発生しています。
デジタルを上手に活用している会社は、受注や予算は原価管理システムで、仕入以下は会計システムを使って管理しています。これらを連携させることで、同じような売上や仕入の情報を二重入力しなくても、1つのシステムに1度入力するだけでデータが結びつくようになります。


効果③
銀行口座と連携設定を行い、AI推定による記帳を自動化


会計システムと銀行口座を連携すると、銀行から入出金データが会計ソフトに自動的に取り込まれます。そして取り込まれた入出金データをAIが予測し自動仕訳してくれます。AIは学習していくので、仕訳候補の精度はどんどん上がってきます。自動化によって、手入力作業を減らすことができます。

紙伝票をOCRの自動認識によりデータ化し、既調自動化

経理で日々受領する請求書をOCRで読み取り、さらにこれをAIが自動で読み取って仕訳、記帳してくれます。合っているかどうかのチェックは必要ですが、仕訳や記帳の作業を減らしていくことができます。

デジタルツール活用で生産性が向上した事例

年商20億円のある住宅会社の事例を紹介します。
A社は基幹システムの操作が煩雑なこと、売上と原価の管理ができず会計数値の精度が低かったことに悩んでおり、正確な工事の収支管理をするためにデジタル化を進めました。
その結果

・受注金額や売上金額の計上月が明確になり、社内調整がスムーズになった
・工事別の受注金額や売上金額、利益目標や利益金額の工事原価が見える化した
・部署別や工事別に労務費・外注費・販管費で経費を仕分けできるようになった
・誰もが入力でき、早いタイミングで収支管理の把握が正確な可能になった

経営において、会計財務データの重要度が高まっています。インボイス制度が始まった中で増えていく業務に対するリソースの確保、対応できる仕組み作りが必要になっていきます。
会計・財務機能のアナログからデジタルへの移行は、さまざまな業界において今後必須です。インボイス制度への対応を機にデジタルツールを上手に活用しながら自社の仕組みを整え、生産性を高めていきましょう。

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【この記事を書いたコンサルタント】
財務支援部

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財務指標をただ算出してその上下を評価するのではなく、それらの指標をどのように経営判断、投資判断材料とするのか、持続的な成長を支える為に必要な資金調達額を最大にするための施策を検討、実行します。
攻めの投資を実現する際に最も大切なことは、その1期のみ最大の成果を出せることではなく、持続的に最大限の成長を継続することです。
それを資金面から実現する戦略をデザインします。

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