財務トピックス(コンサルタントコラム)

「私募債」による資金調達で仕入れを増やし、売上倍増! 事業戦略シリーズ(2)

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一寸先で何が起きるか全く読めない加速世界。
取れる戦略を「事前準備」し、成長を再加速できる体制を!

(※当該コラムは全4回にわたって、企業の「事業戦略シリーズ」と題し、いま必要な企業の各種戦略・手法に関してお伝えしていくものです。)

ここ10年の世界のスピードが想像もできないほど加速しています。
”携帯メール”は、”SNSやLINE”でよりリアルタイムになり、
・移動しなくても”遠隔で業務(リモートワーク)”できるようになり、
・ついには、モノやお金も”ネットで完結して”取引することができるようになった
などあらゆるものは加速し、それを利用するためのツールも溢れました。

一方人は30年で脳の容量が倍になった…とはいかず、情報が高速化しても、それに追いつけない事態が発生することも多くなりました。
「最新」があまりに早く変わり、正しいことが次の瞬間、間違いになることもあるため、人はできる限り情報を早く・正しく・効率的に取得しなければなりません。
これは経営においても同様で、特に売上・利益を拡大するために重要な「おカネ(金融)」にまつわる情報は、以前にもましていち早く取り入れねばならなくなりました。

そこで今回は、
・IT等の「イケイケ業種」ではなく「古き良きビジネスモデル」ながら、
・時流を2年前からガッチリ押さえて社内の各体制を整え、
・金融業界のトレンドワードである「私募債」「M&A」「グループ経営」を自社に導入、
・準備が奏功し、3期連続グループ増収増益・年商50億円超を達成

した事例を基に、企業を再度大きく成長させるための手法を紹介します。

中小企業の新たな加速装置となった「私募債」

シリーズ第2回では金融にまつわる近時のトレンドのなかでも、ここ数年で中小企業での取り扱いが増えた資金調達術「私募債」に関して紹介します。

「えっ、私募債?いや、当社は何年も前から銀行に私募債なんて提案されていましたけど?」

と、少し拍子抜けした方もおられるかもしれません。
たしかに、古くから私募債は中堅~大手企業の1億円以上の高額な資金調達を行う際、通常の証書で借入するようなものとは異なる手法で有利に調達できる手法として、活用されてきました。
一方皆様はここ数年、「私募債」が単に大きなお金を借りるだけの手法ではなくなってきているということは、情報収集できているでしょうか。

以下の図を確認し、現状を確認しましょう。

【図1】「私募債」の今昔(※)

(1)私募債の「金額」
一昔前の私募債といえば、対象は年商数十億もあるような中堅~大手企業であり、発行できる金額も1億円から等、中小企業にとって比較的高いハードルが設けられていました(※今でも、各金融機関によって私募債には発行下限金額が設定されていることが多いです)。
しかし近年は「ミニ私募債」と言われるような、発行金額が30~50百万円程度のものが増加しており、このことで比較的成長途上の中小企業、年商10億円以下の企業も選択肢に私募債が織り込めるようになっています。

(2)私募債の「金利・手数料」
金融機関は間接金融の砦としてお金を市場に融通し、利息で儲けるのが「祖業」ですが、ご存じの通り国内は空前の低金利時代で、金融機関も次々に県外進出してしのぎを削りあったことから、いまや「金利で儲けよう」とするのが難しくなってしまいました。
私募債は、その性質上発行までに複数手続きが必要となるため、金融機関はここにかかる労力に「手数料」を課し、私募債発行に一気に手数料収入を得る仕組みを取っています。
つまり、私募債は金融機関にとって低金利時代下の「最後の儲け技」であり、売りたい商品の1つなのです。
反対側の我々顧客もその背景をわかったうえで、戦略的に積極的な相手の提案を活用したいですね。

(3)私募債の「資金使途」
金融機関からお金を借りる際に必ず聞かれる要素の1つとして「そのお金は何に使うのか(資金使途)」があります。
たとえどんなに決算書の中身が良くても、資金使途が不明瞭なものに、金融機関はお金を出してくれません。
私募債は過去多額の資金調達を行う手法という毛色が強かったこともあり、工場建築等の大型設備投資のために使われるケースが多く、中小企業には関係がない話、というイメージも強かったのではないかと思います。
一方現在は前述(1)のとおり、数千万円単位の私募債を取り扱う金融機関も増加しており、設備資金に限ることなく、日々の運転資金(事業を継続させるために必要となる商売上のお金)用として私募債を選択する戦略をとることもできるようになりました。

(4)私募債の「調達期間」
私募債には主に「定例償還型(半年~1年など決まったタイミングで元本を分割償還する)」、あるいは「期限一括型(3~5年といった私募債発行期間中に返済が不要であり、期日に全額償還する)」という形式が用意されています。
最近の弊社財務支援のなかでは上場企業レベルの財務状況でなくともきちんと業績を管理し、金融機関との情報共有ができている企業が「期限一括型」を採用して有利な資金繰り環境を作る事例も多くあり、通常の証書借入等とは一線を画した戦略を打てる可能性も高まりました。

(5)私募債の「条件」
私募債が通常の融資と最も異なるところが、私募債は「証券保管振替機構」のホームページで、誰でもどの企業がどんな私募債を発行しているか見ることができる点であり、これが金融機関に対する1つの信用力向上につながるという点です。
「私募債を〇〇銀行で発行しているということは、それ相応の財務基盤がある企業だ」といった形で、取引のない金融機関も積極的に資金調達提案に来る可能性が高まり、ひいては自社のおカネ周りを整備するチャンスが増えていきます。
最近ではこうした基本的な効果に加え、地元公共機関への寄付を同時に実施できたり、経済史の全面広告に自社ロゴを掲載できるなど、よりCSR(企業の社会的意義の宣伝)効果を狙った商品性のものも登場しています。
CSRの取り組みは時に採用・企業ブランディングという数字に表見しないプラス効果を及ぼすため、私募債発行手数料を1つの「販売促進費・広告宣伝費」として考え、調達計画と同時に推し進める手段も、新たな戦略と言えるのかもしれません。
(※私募債に関する参考記事はこちらをクリック)

(※)
コラムに掲載している私募債のトレンドは、実際に弊社コンサルタントが全国の中小企業のご支援にお伺いするなかで得た事例、あるいは金融機関からの情報等を基に執筆しておりますが、資金調達には個別金融機関の審査が必要であり、必ずしもこのトレンドの限りでないこともあるため、あらかじめご承知おきください。

【事例】成功企業の私募債の使い方

たとえば、長年地場に根差して事業展開をしてきたグループ企業のAは、何十年という業歴のなかで業績を着実に拡大し、いわゆる「安定老舗企業」として活躍していましたが、
・不動産融資の不正問題発生に伴う、取引金融機関の融資姿勢引き締め
・年商拡大に伴い、必要資金が多くなることでの借入金額増加
・グループ会社で別々の事業をしており、商流(モノ・カネの流れ)が複雑化

といった「成長・成熟企業だからこその悩み」に直面し、今までの資金調達手法での業績拡大ができなくなってきていることに気づきました。普通なら、

「売上・利益を積み上げれば、銀行もまた貸してくれるようになるだろう」

と考え、上記の面倒くさい問題はいざ、痛い目に合うまで蓋をする…というケースも多く拝見しますが、企業Aの経営者は踏みとどまることなく「私募債活用」に活路を見出します。
・事業(1)が仕入れ・販売によるお金の増減が非常に激しい:期限一括型の私募債でカバー
・事業(2)は入金のサイクルが早く、利益も十分に出ている:無借金経営で問題なし
・事業すべてを見ているホールディングス会社     :M&A等の資金調達を事業計画で策定

と戦略の一部、最も問題が出ている部分に私募債を織り込んだことで、事業(1)が他社よりも早い買付け・仕入れができる余裕資金を確保し問題を解決、大幅増収増益の結果をたたき出すことに成功しました。

まさに、時流をとらえた「今風」の成長戦略だったのではないかと思います。

【まとめ】「ツール」を「戦略」に変えていくためには

今回はシリーズ第2回として、企業を再加速させていくために知っておくべき戦略の1つ「私募債」のここ最近でのトレンドと、その成功事例に関してエッセンスを伝えてきました。
次回以降も継続して、事業をさらに1段階加速させてくれる起爆剤となる戦略・手法に関してご紹介していきますので、ぜひお楽しみに。

次回3月19日は「資金調達を最大化する関連会社の「見せ方」 事業戦略シリーズ(3)」をお送りいたします。

◎資金調達を最大化する関連会社の「見せ方」 事業戦略シリーズ(3)はこちらから

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【この記事を書いたコンサルタント】
財務支援部

船井総研の財務コンサルティングは、企業の業績アップを「資金と管理面」からバックアップする実行型コンサルティングです。
財務指標をただ算出してその上下を評価するのではなく、それらの指標をどのように経営判断、投資判断材料とするのか、持続的な成長を支える為に必要な資金調達額を最大にするための施策を検討、実行します。
攻めの投資を実現する際に最も大切なことは、その1期のみ最大の成果を出せることではなく、持続的に最大限の成長を継続することです。
それを資金面から実現する戦略をデザインします。

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