私募債・社債のメリット、デメリット
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目次
1.はじめに
様々な金融機関と会うなかでは、単なる借入提案のほかに、彼らの融資先とのマッチング提案や、系列のリース・不動産・カード会社の紹介、さらには社長の個人資産に関するコンサルティング(という名前の投資信託や保険、仕組み預金等の販売提案)など、彼らがもはや「金融なんでも隊」として活動しているなと感じることはないでしょうか。
2018年1月には、金融庁マニュアルの「銀行の業務範囲」のなかで人材派遣業禁止に関する文言が明記されなくなり、今後は金融機関が人材派遣業にも乗り出すのではといった話もありました。
金融機関も一般的な融資を行い、金利を得るだけでは十分な収益を得られない環境下。
今や「金融」から派生するあらゆる商品を売る方針へと変容しています。
また最近は融資提案においても、過去比較的大きな企業でのみ扱われてきた「私募債(社債)」発行という手数料が発生する資金調達方法が、少額からでも積極的に提案されるようになっています。
これも手数料で稼がなければならない金融機関の時流と考えると、我々借り手もできるだけこの商品知識を深めておく必要があります。
今回は「私募債(社債)」の商品性をご紹介するとともに、そのメリット・デメリット、使いどころに関して考えたいと思います。
2.私募債(社債)とは
一言で説明するなら「自社が有価証券を発行し、それを少数の投資家が引受けしてくれるもの」が私募債です。
非上場企業は、市場で株式を公開しそれを購入してもらうことで資金を獲得できる上場企業と異なり、資金調達と言えば金融機関から融資を受けることが一般的です。(①)
一方私募債の場合、性質は上場事業の社債発行と同様、企業が社債発行母体となって社債を発行し、社債を引き受けする会社(主には金融機関)よりその際の購入資金を調達する手法のことを指します。
上場企業の場合はこれを公開市場で「公募債」という形をとって行うわけですが、非上場企業はクローズな市場で金融機関・または信用保証協会より保証を受けて私的に行います。(②)
3.私募債(社債)のメリット
は通常の融資ではなく、私募債で資金調達をすることのメリットとは何でしょう。
①CSR(対外広告)効果
私募債は通常融資とは異なり、社債発行の際に金融機関や保証協会から、その社債がたしからしいものであることについて「保証」を出してもらえる制度であり、企業を日々審査している金融機関からのお墨付きはそのまま自社の信用力向上につながります。また、社債発行の事実は「証券保管振替機構(通称「ほふり」)」に記録され誰でも検索できる状況となるため、こうしたお墨付きは広く一般に知れ渡ることになります。
(例:株式会社船井総研ホールディングスの発行している私募債の情報ページ 証券保管振替機構ページより)
「私募債を○○銀行引き受けで発行しているなんて、良い財務の会社に違いない」。
金融業界からのお墨付きは、取引金融機関のみならず新規行の営業マンにも前向きな情報を与えます。
②資金繰りに有意な返済形式が取れる
私募債は返済ピッチが半年おきや1年おきなど「定時償還」の償還スケジュールを組むケースもあれば、財務状況が一定水準以上あれば数年後に「一括償還」等、毎月返済でお金が減らない形式の調達を行うことも可能です。
これは有利子負債ではありながら、期間中は疑似資本として私募債を活用できることになるため、資金繰りにとって非常に有利な運営を行うことが可能になります。
4.私募債のデメリット
①リスケジュールが不可
筆者が考える最大のデメリット、それは仮に業績が悪くなったとしても、私募債は通常借入のように「リスケジュール(リスケ=返済猶予の設定)」ができないこと。
「うちは盤石な黒字企業」という企業でも一寸先は闇、いつ業界の動向が大きく変わるかもわからないもの。
万が一の際の資金戦略を考える上で、最後の手段が取れないというリスクは背負うことになります。それだけに、調達後は徹底した資金管理体制を整えたいですね。(※)
(※)私募債の「リスケジュール」
そうはいっても、万が一「もう私募債の償還ができないほどに資金繰りが厳しい」となった場合、次回の私募債の償還期日に一括償還を行いお金は全額返済、代わりに高金利の手形貸付で償還分の資金を同時に金融機関から出してもらうのが一般的な手続きです。
金融機関にしてみれば、リスケジュールをするほど財務を傷めてしまった企業にもう1度稟議を書き、お金を貸す手続きを取らねばならないことを考えると、こうした対応は非常に消極的に行われ、金利も普通の証書貸付のリスケジュール以上に高く設定される場合が多いです。
そう考えると、やはり「私募債のリスケジュールは危険」という認識を持つ方が良いかと思われます。
②調達コストが融資対比高い場合がある
私募債は償還時に金融機関に支払う「社債利息(実質的には融資の際の金利と同様)」に加え、発行時に手数料を余計に払わないといけないため、場合によっては社債利息が安くともオールインでのコストが融資よりも高くなってしまう可能性があります。
特に近年の低金利マーケットでは、無理に社債で調達を行うよりも、低金利の融資を受けるほうが無駄な費用を使わずに済む場合も多いため、私募債発行時には十分「オールイン」でのコストを考え、融資との比較検討をする必要があるでしょう。
5.今更聞けない!「私募債」の種類を学ぼう
では、私募債の仕組みや善し悪しの目線が分かったところで、具体的に金融機関から私募債の提案を受けたときに、企業がどのような目線でその提案書を確認したらよいかに関して、以下の5ポイントに絞って解説したいと思います。
①私募債の発行金額
これまで「私募債を発行して資金調達を行う企業」といえば、信用力の高い中堅以上の非上場企業や、上場企業の一部であることが多く、ゆえに発行金額も1億円以上等の高いハードルを設ける金融機関が多くありました(※現在も金融機関によって、私募債の発行額の下限が決められているケースが多いです)。
しかし近年の金融環境の変化に伴い、中小企業と呼ばれるレンジの企業にも1億円以下の金額で積極的に私募債を提案する地銀が増加しており、いわゆる「ミニ私募債(発行金額1億円以下の私募債)」は選択しやすい状況になりました。
これまでは大型の設備投資がないと選択肢にも入らなかった私募債が、日々の経営を回すためのお金としても検討できるようになった点では、中小企業の資金調達は多様化したということができるでしょう。
②債権者
ここまでお話をしてきた「私募債」は、いわゆる「プロ私募債(=金融機関など、少数の機関投資家が債権者となって企業が社債を発行する形式の私募債)」を想定しての内容でしたが、実は私募債には、上場企業のように複数(※50人以下)の社債権者に少しずつ社債を持たせ、資金調達を行う「少人数私募債」という選択肢もあります。
金融機関から提案を受ける私募債は社債発行にかかる事務手続きを代行してもらえるメリットがある半面、手数料が高く、発行コスト総額で考えると証書・手形借入を行うよりも損が大きい場合があるというデメリットもあります。
その点、少人数私募債は手間がかかり、債権者が複数になる点で利害関係者も増え、煩雑という点はあるものの、コストを抑えて資金調達をできるうえ、仮に社債権者が発行企業と良好な関係を持つ方であれば、長期にわたって安定して資金調達環境を醸成できるメリットがあります。
③返済条件
前述のメリットとしてご紹介したのですが、私募債は一般的な借入と比べて「期日一括型(毎月の返済がなく、期日に一括して元金を償還する形式)」を取りやすい資金調達方式です。
もちろん、一定以上の財務状況であることを金融機関に認めてもらわねばなりませんが、期日到来時の出口戦略を考えつつも、期中は返済によりキャッシュの水準を落としてしまう危険を回避することが可能です。
一方、期日一括形式でない返済条件といえば「定例償還型」です。
半年スパンなど、一定期間おきに元金を均等償還していく形式ですが、こちらは通常の毎月元金均等返済型に比べると1回の返済額が大きくなってしまうため、資金管理がむしろ難しいという側面もあります。
④保証
私募債の発行は原則として当該企業や経営者より担保・保証を取らない形式で発行する代わりに、その私募債がたしからしいということを補完するために、金融機関、あるいは信用保証協会が保証を付与する形式をとります。
一般的に保証協会付融資よりも金融機関プロパー融資の方がハードルが高いように、私募債もまた銀行保証付きの方が一定以上の財務水準を超えなければ発行が難しいとされます。
ただし、保証協会付の私募債の「適債条件(=このような企業であれば私募債に保証を出すよという規定)」は各金融機関の与信判断以上にルール通り運用されるため、少しでも条件をはみ出すと一律発行不可となる、いわゆる「お役所色」が強めな面は、覚えておかねばなりません。
⑤条件
近年、銀行保証付私募債の一部には、発行手数料の一部を大学などの公共機関、あるいは環境団体などに寄付するような、企業のCSR効果にも寄与する形式の商品が登場しています。
なかには、大手新聞社の広告面に発行企業のロゴを掲載してもらえるようなサービスがついた私募債もあり、私募債の発行コストを広告宣伝費の一部として勘案できる商品があります。
地域によってはテレビ取材などが来るような私募債商品もあり、CSRの側面としての私募債はますます存在感を増しているといえるのでしょう。
6.まとめあらゆる資金調達を学ぶべき時代
本日は「私募債(社債)」とは何かをご説明し、そのメリット・デメリットをご紹介しました。財務支援を行っているコンサルタントとしては、金融機関が単なる金貸しに終わらず、ありとあらゆる付加価値をもって、この金融不況を乗り切ろう、お客さまを支援していこうとする姿勢に好感を持つ一方、ご経営者の方々には金融機関が多用化するのに合わせてあらゆる「資金調達」について学んでいただき、無理のないような形での資金調達を行っていただきたいと考えております。
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