財務トピックス(コンサルタントコラム)

売上のケタを1つ増やすための財務戦略3つのポイント

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企業経営には「これまでの延長ではうまくいかなくなる」ステージがたくさんあります。そのような局面を迎えたときに、どのような手を打つべきか。本記事では「財務戦略」に焦点を当ててお伝えします。

年商に応じて変わる「計画」に対する考え方

画像提供:PIXTA

これまでに年商20億や30億といった大きな数字を達成してきた企業の多くは、中期経営計画をしっかりと策定しています。

それは素晴らしいことで、数字の達成は計画があるからこそできたことです。その内容を詳しく見ていくと、「既存事業をどう伸ばすか」が中心です。

そこまでしっかり行うことができ、この先のさらなる成長を目指したい企業、それこそ売上のケタが1つ変わるような大きな変化を志向する会社が考えるべき計画は、変わってきます。

まず、売上のケタが変わるような成長に伴う経営課題は一気に多様化します。そして、既存のものの延長の発想では、それらの新たに噴出する経営課題に対応できなくなります。

これまでの延長ではなく、新たな施策が求められるタイミングでもあります。

超高齢化社会を迎え、市場環境が今後悪化していく中でも、年商100億、もしくは社員200名規模といった大きな成長を実現していくためには、10年単位での長期計画を立て、多様化する経営課題をバックキャスティングで包括的に解決していく必要があります。

そのような攻めの経営拡大を目指すうえで、今回は「カネの話」財務戦略に焦点を絞ってお伝えします。

大きな成長を描く財務戦略においてカギとなるのは、以下の3点です。

1:リアルタイム財務

2:社長の代わりにより詳しく財務を見て戦略を立てられるCFOの採用・育成

3:信金・地銀のフェーズからメガバンクと付き合う資金調達へ

今回は上記3点を中心に「攻めの財務戦略」について、事例を交えて紹介してまいります。

大きな成長を目指すために実現すべき財務3つのカギ

論より証拠で、それぞれの攻めの財務戦略を行い業績が改善、今後の大きな成長戦略を描くことができた事例を紹介いたします。

①リアルタイム財務
リアルタイム財務とは……
日々の経営に関する数値を自社でリアルタイムに把握し、経営判断や投資判断に活用できている状態。リアルタイム財務ができていると、経営に関する数値や情報が直近のものかつ正確であるため、経営判断をする上でミスが起こりにくく、見通しも立てやすくなるため、金融機関から融資が受けやすくなることも期待できる。

事例①住宅不動産業
従業員数:約80名
年商:16億→36億
営業利益:▲3000万→1.1億
資金調達:3億→12億
月次決算に要した日数:3カ月→5日
経理人数:5人→5人

財務課題
・これまでは社長の頭の中で損益や資金繰りを予測できていたが、年商20億を超えるタイミングで、把握しきれなくなった
・試算表は毎月出るものの、3カ月遅れ

社長は数字に自信があり、これまで損益状況や案件の把握をしながら経営を行ってきましたが、従業員の増加とともに、会社に関する数字の把握が困難になっていきました。
それでも試算表実績をもとに経営していたものの、3カ月遅れの実績をもとに過剰投資を行ったことで、大幅な赤字を計上。金融機関からの資金調達もストップし、約5年間にわたり、事業が停滞してしまいました。

改善案
リアルタイム財務の導入による数字の見える化


しばしば、「リアルタイム財務」「数字の見える化」と聞くと、クラウド会計を導入すればいいと考えられますが、クラウド会計の導入だけではリアルタイム財務は実現しません。

クラウド会計の導入によって実現できるのは月次決算DXなど一部だけで、その先にある真のリアルタイム財務には、経理DXと財務DXが必要です。

クラウド会計を導入し、数字の見える化ができたら、次のステップの経理DXのために業務フローの改善と、既存の周辺システムとの連携や仕組み作りを行います。そして最後の財務DXとして、出てきたデータを経営に活用するための分析と予実管理までを行うのです。

以上がリアルタイム財務の基本となりますが、一般的にクラウド会計の導入に3カ月、経理DXと財務DXの適用に合計9カ月かかるとされています。

そして業務改善を進めるために、会議体の設計も行う必要があります。

会議体の数を月に1回から、週に1回にすることで、事業の改善、拡大のチャンスが生まれるのです。

このように、リアルタイムで経営状況が把握できるからこそ、高速でのPDCA サイクルが回り、経営が循環します。

前述のように自社の正確な数字をリアルタイムで把握することで、経営方針をより正確な根拠に基づいて策定することができるようになります。

また、自社の業績の根拠についても明瞭になるため、それに基づきその後の経営判断を正しく進めたことで、業績の回復、拡大につながっていきました。

②CFOの採用・育成

事例②業種:小売業(グループ3社)
従業員数:約350名
年商:70億→130億
営業利益:2億→6億
資金調達:相対取引→シンジケートローン組織
財務担当:社長→CFO
数値管理:数字全般→経営数値KPI

財務課題
・経理財務未経験で代表就任
・財務番頭の退職
・税務部門の仕組みづくりと人材育成に課題

課題内容
前社長の急逝により、経理・財務未経験で現社長が就任。そのタイミングで財務番頭も退職したため、経理を行える人材がおらず、仕方なく社長が兼任。
しかし、そのおかげで社長業(事業戦略)に割く時間が減ってしまい、事業が伸び悩んでしまいました。

改善提案
CFOの育成、財務権限を移譲。
事業には

1.攻めの領域
①新たな事業戦略の策定
②組織マネジメント
③人材の育成・教育etc…

2.守りの領域
①経理・財務・総務
②その他バックオフィス業務 etc…

の2つが存在し、攻めの領域は多くの社長が得意とするところであり、時間を割いてでも伸ばすべき領域です。

一方で守りの領域は、ほとんどの社長が苦手とする領域であり、社内外のリソースを活用し、なるべく時間をかけないようにするべき領域になります。

今回の事例企業では、社内で経理を行う人材がおらず、仕方なく社長が行っていましたが、その結果本来社長の業務である「攻めの領域」がおろそかになり、経営が行き詰まってしまいました。

そこで新たにCFOを立て、権限委譲していく方針に切り替えました。

では、どのようにCFOを立てる、そのための採用をするのか。

CFOには「採用」と「育成」の2パターンがあります。

「採用」の候補には銀行の元支店長や会計士、税理士などの経験がある人材が挙げられますが、待遇面で折り合いがつかない、候補の少なさなど採用難易度が高く、また採用後も、彼らは数字の専門家かもしれませんが、事業への理解の乏しさや既存幹部との相性など活躍できない場合もあります。

一方、既存社員の中からCFOの「育成」という方法もあります。育成には時間も労力も必要ですので、CFOの育成は、外部専門家を活用して行っていくのが一番の近道です。

実際にこの企業でも既存社員の教育を船井総研に外部委託し、CFOがリアルタイム財務を実践した予実管理と、金融機関との単独での融資交渉を行えるようになりました。

自社にはCFOをできるような数字に強い人材がいないという企業も多いと思います。しかし、リアルタイム財務で数字が出てきている環境であれば、CFOは出てきた数値を分析し判断することがメインになるため、極論を言えば、CFO自身が数字を見られなくても大丈夫です。

CFOの育成は大事ですが、大事なのは数字を正確に把握できる状態になっていること。まずはリアルタイム財務にぜひ力を入れていただきたいと思います。

CFOを社内で育成し、社長が本業に集中できるよう権限移譲が行われた結果、こちらの企業は規模拡大、最高益の更新、金融機関よりシンジケートローンを引き出すことに成功しました。

③資金調達~年商50億から70億の壁
売上高が20億近くの社長であれば、融資に困っている方は少ないと思います。
しかし「年商50億から70億の間に壁がある」とされており、100億を目指すためには資金調達の方法を見直す必要があります。


これまで、金融機関にはそれぞれ企業の売上高に応じて棲み分けがあるとされていましたが、最近では信用金庫は融資の上限が年商20億近辺まで上に伸び、地銀は大体50億を上限に範囲を下に伸ばしています。

それらに対し、メガバンクは70億以上を融資先の1つの目安として取引しているため、どこの金融機関もカバーしていない50~70億の範囲が壁となるのです。

その壁を突破するには、既存の取引がある銀行の1行あたりの取引金額を上限まで上げていく必要があります。

信用金庫が中心の場合、上限が10億前後とされているので、10億の銀行を数社重ねて次は地銀への以降、70億が見えてきたらメガバンクにスライドしていくのがいいでしょう。

20億近辺の企業は地銀や信金の扱う範囲の拡大に伴い、融資を受けやすい状態にあります。そこからさらなる上を目指していくためには「今困っていないから」ではなく、先を見据えた金融機関との取引も考えていく必要があります。

まとめ

本日お話ししましたリアルタイム財務には、企業の大きさによって行うべきステップが存在します。
今回の記事の内容を受け、自社は現在どの段階にいて、現状では何ができていないのかを把握し、今後の大きな成長を目指すための財務戦略を進めてみてはいかがでしょうか。

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【この記事を書いたコンサルタント】
財務支援部

船井総研の財務コンサルティングは、企業の業績アップを「資金と管理面」からバックアップする実行型コンサルティングです。
財務指標をただ算出してその上下を評価するのではなく、それらの指標をどのように経営判断、投資判断材料とするのか、持続的な成長を支える為に必要な資金調達額を最大にするための施策を検討、実行します。
攻めの投資を実現する際に最も大切なことは、その1期のみ最大の成果を出せることではなく、持続的に最大限の成長を継続することです。
それを資金面から実現する戦略をデザインします。

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