財務トピックス(コンサルタントコラム)

対コロナ、危機発生時の財務戦略

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100億企業を実現した5人の経営者の成功事例

はじめに

「2000年以降、日本の中小企業経営者にとって、一番大きな経営の危機事象は何だったでしょうか?」

そう問われたとき、様々な答えがあるでしょうが、私は自信をもって『リーマンショック』だったと答えます。
2008年9月に発生した米国発の世界的な金融危機は、日本の中小企業経営者に危機的な試練を与えました。

今回発生した新型肺炎は、どれほど中小企業経営に影響を及ぼすか未知数です。
ただちに収束する可能性もあれば、リーマンショックを超える危機となる可能性も秘めているといえるでしょう。
いま経営者の皆さんに求められることは、最悪のシナリオを想定し、一刻も早く適切に危機への対策を講じ、実行に移すことだと思います。

本コラムでは歴史を紐解き、危機を乗り越えるために採用すべき財務戦略をお伝えします。

最悪のシナリオを想定し準備する

リーマンショックにて、とある自動車メーカーの1次下請企業では、主要受注先の自動車メーカーの生産停止に伴い、自社工場ラインの生産停止を余儀なくされました。
結果、その会社は単月の売上高がゼロという事態に至ってしまったのです。

皆さんは事業をしていて、売上高が1円もない月があることを想像できるでしょうか?
売上がゼロとなったら、当たり前ですが入金もゼロです。一方仕入先への支払いや従業員に給与を支払い続けなければなりません。
結果、手元資金はどんどん流出し、資金ショートつまり事業存続の危機を迎えるわけです。

想像するだけで空恐ろしいでしょうが、最悪のリスクを想定するということはそこまで考えるということだと思います。
わずか10年程度前、現実にこのような窮地に陥った中小企業が数多く存在しました。中には事業が存続できなくなった会社もあります。
経営者の皆さんは、リーマンショックに学び、最悪のシナリオを想定したうえで、先手先手の資金繰り対策を直ちに講じる必要があるのです。

平時→有事用の財務戦略転換の意思決定が必要

では今回のような有事に採用すべき財務戦略とはなんでしょうか?

簡単に言えば、早期に現預金を積上げる、これにつきます。
平時において、採用すべき財務戦略は、中長期的に現預金の心配なく永続的に成長し続けるために、現預金が貯まる仕組みを構築することでした。

◇金融機関の協力を得て、成長に必要な資金調達枠を確保したのち、必要な時に資金を
 借りて、必要でなくなったら資金を返す
→このサイクルを繰り返し、金融機関からの信用力を高め、投資に必要な資金調達枠を
 更に拡大し、成長を加速させていく
→結果、低い金利や、担保や経営者保証に依存しない資金調達を実現し、事業承継を
 円滑に実施し、企業の永続性を高める
以上のようなサイクルを作ることが是でした。

しかし、今回のような有事においては、目先の現預金確保が最優先です。

平時用の財務戦略は一旦置いておき、
目先で資金が必要なくても、適切な順番で借りるだけ借りて現預金を積上げる」
という有事用の財務戦略に頭を切り替えることが最優先されます。

本コラムを読んでいただいている皆さんには、まず財務戦略転換の意思決定をすることが必要です。

最低月商3か月分の現預金の積み上げを目指す

ではどのくらいの水準まで現預金を積み上げを目指せばよいのでしょうか。

先に見ていただいたリーマンショックの事例のように、完全に単月の売上がゼロとなる最悪のシナリオを想定すると、必要となる販管費(人件費、経費など)や運転資金(売上債権+在庫ー支払債務)、借入金の返済を考えると、月商3か月分の現預金確保が有事に求められる最低の現預金水準ではないでしょうか。

現預金水準について、月商3か月分が警戒レベル脱却、月商6か月分程度でようやく一安心できるレベルと考えます。

最悪のシナリオを想定しているにもかかわらず、今手持ちの現預金水準が月商の3か月未満ということであれば、早急に金融機関借入を活用し、現預金の積み上げを図るべきだと考えます。
新型肺炎の影響がどれほど長期化するか分からない状況の中では、まずは悲観的に準備し、現預金を積み上げた後で、楽観的に対処することが吉と言えるでしょう。

利用するべき金融機関・制度の優先順位

次は有事用に財務戦略転換を意思決定し、現預金の積上げ目標が決まった後のアクションについてです。
やるべきことは、有事の際に相談する金融機関や制度の優先順位を把握することです。

平時の場合は、民間金融機関からのプロパー借入が最優先、2番目が日本政策金融公庫や商工中金などの政府系金融機関からの借入、3番目が民間金融機関の信用保証協会保証付でした。
財務戦略と同様、有事と平時ではやるべきことの優先順位が全く異なります。

有事の場合、最優先される金融機関・制度は二つあると考えます。
一つ目は、信用保証協会の別枠を利用した民間金融機関からの借入です。
注意するべきポイントは、保証協会の一般枠を使うのではなく、こういった有事の際に使うことができる別枠、つまり制度融資を使う点です。

二つ目は、日本政策金融公庫や商工中金などの政府系金融機関で適用される制度融資を活用して資金調達するということです。
この二つが最優先で、しっかりと取り組んでもらいたい資金調達手段です。

次が民間の金融機関からのプロパー借入、最後が民間金融機関で信用保証協会の一般枠を活用した借入です。
以上をまとめると、有事の際の資金調達における金融機関・制度は、
民間金融機関  : 信用保証協会の別枠 > プロパー > 一般枠 
政府系金融機関 : 制度融資 > 一般枠
の順に優先順位が高いと覚えてください。

金融機関への相談は早急に

国や地方公共団体、政府系金融機関は、新型肺炎に対応した制度融資を日々発表し、内容が更新されています。
現在公表されている制度融資の要件を確認すると、多くの制度融資は、売上や利益が減少したというエビデンス(試算表等)が必要だと明記されています。
例えば、「最近の単月の売上高が、前年同月と比較し10%以上減少していれば要件該当」といった具合です。

制度融資の要件を確認したうえで、合致している(合致しそう)であると判断できるのであれば、早急に金融機関へ相談することが重要です。
なぜ早急に相談する必要があるのかというと、必要なときに借入が受けられる体制にするためです。

金融機関内において、決算書の登録→格付実施という審査フローは、制度融資を利用するとはいっても、避けては通ることができない道です。

制度融資の申し込みが殺到し、審査の順番が後回しとなり、資金が必要なタイミングに間に合わないという事態だけは避けなければなりません。
そのため、要件に合致しそうという見切り発車であることを恐れず、早急に金融機関へ相談し、審査のテーブルにのせてもらうことが必要なのです。

可能な限り借入金額は大きく借入期間は長く

では、有事の際に実際借入をする場合、具体的な借入条件についてどのような優先順位とすればよいのでしょうか。
可能な限り借入金額は大きく、借入期間は長く、この2つを最優先してもらうことがベストです。

期間に関しては、当座貸越や手形借入で1年以内の短期継続融資を目指すのではなく、証書借入で1年を超える、とにかく長い期間を設定するべきといえます。

例えば、平時では運転資金を期間5年以内とすることが通常ですが、制度融資は運転資金でも最大期間10年以内が認められるものもあります。
期間5年と10年で毎月の返済負担額は倍違うわけです。
できる限り月々の返済負担額を減らし、キャッシュアウトを極小化し、期限の利益は最大限確保すべきです。

その考えの延長線で、据置期間もできるだけ長く設定するべきといえます。据置期間とは資金を借りてから初回返済までの期間のことですが、制度融資では最大3年という制度もあります。
以上、有事においては、可能な限り借入期間・据置期間を最大にすべきなのです。

また担保・保証について、借入金額が大きくなり、借入期間が長くなるのであれば、積極的に活用して差し入れをするべきですが、差し入れ方法には注意が必要です。
具体的には、根担保・根保証を避けたほうがいいということです。
根担保・根保証だと、有事→平時に転換したときに担保・保証が及んでいる範囲内の借入を全て返済しなければ、担保・保証が外れないという事態に陥ってしまいます。
有事の出口を見据えて有事の資金調達を行うのであれば、根担保・根保証は避けるべきです(例:普通抵当、個別保証)。

以上借入条件の優先順位を踏まえて、可能な限り借入金額は大きく、借入期間は長くし、目標とする現預金水準を積み上げましょう。

危機を乗り越えた経営者が永続企業をつくりあげる!

以上、危機事象発生時に採用すべき財務戦略をお伝えしてまいりました。

本コラムを読んで、いち早く準備し実行に移せる方は、有事→平時に転換した際、いち早く経営を成長軌道に戻し、危機を乗り越えた経験を活かして、永続可能な企業をつくりあげられる経営者だと確信しております。
今回の新型肺炎という危機事象をチャンスに変えるべく、誰よりも早く準備をしていただけたら幸いです。

100億企業を実現した5人の経営者の成功事例

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【この記事を書いたコンサルタント】
石田 武裕

政府系金融機関にて10年超、融資営業・審査一体となった業務を経験した後、船井総合研究所に入社。
300社超の企業経営者に対する課題解決に向けた融資営業・審査業務を通じ、多岐にわたる業種の財務分析・審査・金融商品等に関する豊富な知識・経験を有する。
経営者の夢に寄り添いながらも、徹底した現場主義を貫き、企業経営者、従業員とともに汗をかいて支援に取り組むことをモットーとしている。

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