財務トピックス(コンサルタントコラム)

M&Aで事業成長!の前に、会社を買うための体制とおカネ、整えていますか? 事業戦略シリーズ(1)

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M&A前に、10億借りる体制作れますか?

(※当該コラムは全4回にわたって、企業の「事業戦略シリーズ」と題し、いま必要な企業の各種戦略・手法に関してお伝えしていくものです。)

「M&A(企業買収・売却)」は、

・新規事業を立ち上げるより、既に顧客層や販売網がある会社を買うことで、効率よく事業拡大できる
・買収する会社に所属する従業員を、新たな戦力として迎えることもできる
・買収する会社が持つ技術を得ることができる
・既存事業とのシナジー効果で、今までにない事業成長を狙うことができる

など、いまや中小企業のなかでも珍しくない事業戦略の1つとして有名になりましたが、とにかく

「会社を買うのには、カネがかかる!」

というのが何よりネックですし、多くの場合は金融機関からの資金調達を行い、その後5~7年は買収資金を返済していくことになるため、そうやすやすと選択できる手段でないのも事実です。
さらには、

・買収しても、あまりシナジー効果が得られず、会社が思ったように収益を作れない…
・買収したはいいが、なかなか社内での融合がうまくいかない…
・買ったときには気づかなかった、債務等の問題を抱えていた…

など、大きなリスクになってしまうこともあるのがM&Aです。
事前にしっかり環境を整えておき、M&Aで想定されるリスクを1つ1つ、丁寧に処理していく「下準備」は、地味なように見えて実は何より重要なことということができるかもしれません。
そこで今回は、

(1)数年前から10億円借りても評価を下げないような盤石な経営体制を構築し、
(2)あわせて、業績も毎年増収増益ペースで伸ばし、
(3)「いざ!」という時にすぐに動き、たった2ヶ月で2件のM&Aを成功させた

事例をいくつかのステップに分けて紹介し、重要なポイントについて共有したいと思います。

【第1段階】「そもそも、もっとおカネを増やせないか?」

ある企業Aは、既に何十年という業歴を重ねていくなかで堅実に成長し、地場でしっかりとした実績を持っていました。
当然手堅い経営を実践しているのでおカネ回りも管理が行き届いており、このまま安定経営すれば何ら問題ないように見えていたのですが、

「さらに、もう1段階事業を拡大していくためには、やはり投資(M&Aなど)が必要」

という社長の先見の明もあり、3年~5年後を見据えた地道な下準備を開始したのでした。

ところで企業は投資抜きには成長できませんが、投資資金のために融資を受けるというのは日常の運転資金と異なり、失敗したら途端に返済が苦しくなる「リスクの高い資金調達」であることに違いありません。
堅実経営の企業Aの取引金融機関は、過去の実績を見て融資することも問題ないとは言うものの、もしものことを考え、社長はまず「今の既存事業でもっとお金を貯める方法はないのか?」という点に集中しました。

・年間の長期借入金元金返済額の想定は?
・対する、自社の年間のキャッシュフロー(※経常利益×0.6+減価償却費などで計算)は?
・既存で調達している融資の本数と条件、担保設定の状況は整理しているか?
・いま、1番融資を出してくれているのはどの銀行か?
・自己資本比率と借入依存度から鑑みて、今なら「あといくら」借りられるのか?

地道な情報整理で、一見ゴールからは遠いことをしているように見えますが、実は企業Aはこの下準備でしっかりと現預金が自社に貯まる構造を理解し、5億円以上の調達力も確保したのでした。

【第2段階】「もしもの時の”余力(無担保・無保証)”を作ろう」

さて、5億円以上の調達力を得て基盤を作った企業Aですが、それでも社長は「第2の下準備」として、さらに強い基盤を固めていくことを狙いました。
それが、無担保の資産を持っておくこと、社長の個人保証なしでも調達できる会社環境を作ることでした。

金融庁方針が緩和されているとはいえ、企業Aのように何十年の業歴を持つ会社は、往々にして
・昔の借入の際に差入した担保がまだ残っている
・先代の経営者の個人保証が実は残っていた
・保証書を保管しているが、今何がどうなっているのやら…
と、今や実態がブラックボックス化しているという事態が発生します。

また、今後も金融機関とはつかず離れず、しっかりした取引を継続したいと考えれば、喧嘩腰で「担保・個人保証を外せ!」とも言うべきではありません。
企業Aの社長はこの点を理解しており、
・自社の年間のキャッシュフローが十分にあることで返済に懸念はないこと
・今後の事業計画を明示し、お金を借りすぎて急拡大するような無謀な策は取らないこと
・仮に担保や保証がなくとも、金融機関とキャッシュ重視のWIN-WINな環境を作ること

等を面談で明示し、M&Aを発生させる前にはついに、無担保・無保証で数億円もの「もしも」の時の資産余力を作ることに成功したのです。

【最終段階】「同時に複数の良いM&A情報が…!」

M&Aや好条件の土地・建物は、準備が整ったとしてもそう簡単には出てきません。
逆に、一気に複数のものが登場し「なんで今、同時に来るんだよ…」と機会損失を受けてしまう可能性も当然あるでしょう。

企業Aの場合も情報を得たのはいいのですが、なんとそのタイミングはほぼ同時であり、もし第2段階までの下準備が住んでいなかったとしたら、
・金融機関からの融資は受けるものの、一部豊富に貯めた自己資金を使う
・自己資金を使ったとしても、潤沢なたくわえがあり日常経営には影響がない
・金融機関からの評価が高まっており、すぐに融資の決裁が下りた
・結果、いち早く交渉に動き、M&Aを両方成功させた!

といった、驚きの速度と事例を出すことはできなかったでしょう。

まさに、来るチャンスに備えてしっかりと準備を整えていた地道な準備が、大輪の花を咲かせた瞬間の出来事でした。

千里のM&A戦略も一歩目の下準備から

今回はシリーズ第1回として、M&Aという手法を使って「大成功」している会社の重要なポイントは、交渉~成約までの取り組み以上に、実は地道な下準備にあったというお話をご紹介しました。
世間はただいま不安定な要素が渦巻いている状況ですが、そうでなくとも企業もまた一寸先の闇に備えておかねば、いつ何に屈してしまうかわかりません。
ぜひ、今回のコラムを参考に使っていただけますと幸いです。

次回3月17日は「『私募債』を学んで仕入れ・成長速度を2倍に? 事業戦略シリーズ(2)」をお送りいたします。
「私募債」と聞いて、馴染みのある方、ない方いらっしゃるかと思います。
そこでM&Aの資金調達手段の一選択肢としての私募債について解説して参ります。

◎『私募債』を学んで仕入れ・成長速度を2倍に? 事業戦略シリーズ(2)はこちらから

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【この記事を書いたコンサルタント】
財務支援部

船井総研の財務コンサルティングは、企業の業績アップを「資金と管理面」からバックアップする実行型コンサルティングです。
財務指標をただ算出してその上下を評価するのではなく、それらの指標をどのように経営判断、投資判断材料とするのか、持続的な成長を支える為に必要な資金調達額を最大にするための施策を検討、実行します。
攻めの投資を実現する際に最も大切なことは、その1期のみ最大の成果を出せることではなく、持続的に最大限の成長を継続することです。
それを資金面から実現する戦略をデザインします。

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