財務トピックス(コンサルタントコラム)

結局「良い財務」とは何か 船井総研HD有報から考える

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船井総合研究所は、6,000社以上の中小企業のご支援先とお会いする機会を持ち、なかでも我々が所属する金融・M&A支援部は「企業の財務」というテーマで業種を絞ることなく、運送・不動産・小売…とあらゆる業種の企業経営者のお話を聞くことができるのが醍醐味です。

我々は常に財務、つまり企業の決算書を見て物事を考え、自社にとって最も良い財務は何なのかを考え、提案する仕事をしています。
主には金融取引(借り方や返し方)を整備して資金繰りを改善することを1つの手法として扱い、効率よくお金を回して次の投資もしやすくなる、ひいては企業価値の向上を果たすというゴールを目指しています。
それだけに我々の業務は決算書や資金繰り表といった具体的数字に基づいており、非常に明確な目標も見出しやすいはずなのですが、「果たして、今我々が提案している財務だけが正解なのだろうか」という疑問を覚えてしまいます。

ふと目線を日頃からお世話になっている非上場企業の世界から、上場企業の「有価証券報告書」に移してみれば、投資1つとっても数百億円と金額が天文学的で、財務状況も非上場企業の投資規模とは大きく異なってきます。
私の所属する船井総合研究所も、親会社の船井総研ホールディングスが東証一部市場に上場しており、市場の目に「船井総研の財務状況は良いのか、悪いのか」と常に監視されている状態にありますが、その目は非上場企業に向けられる目線とは異なっているように感じます。

上場企業の財務から、非上場企業が目指すべき「良い財務」が何かを見出すことはできるか。
逆に上場企業の財務を、あえて非上場企業の決算書を見るように分析した場合、見えることはあるのか。

今回は弊社「船井総研ホールディングス」の2018年12月有価証券報告書の一部を使いながら、このテーマを考えたいと思います。

船井総研の財務諸表 圧倒的なキャッシュリッチ財務

では早速、船井総研ホールディングスの有価証券報告書2018年12月決算期財務諸表、また2017年12月決算期財務諸表の2つの資料を準備し、どのようなことが言えるか、良い財務とは何なのかを考えていきましょう。

まずは、同社の2年間の財務諸表を簡易的に表します。

【表1】船井総研ホールディングス 連結財務諸表 (単位:百万円)


上が貸借対照表・下が損益計算書の2年分を表しているのですが、まず貸借対照表を見てびっくりするのがその「現預金の多さ」、そして「借入・自己資本のバランスの良さ」です。

船井総研ホールディングスの中核業務は創業からのコンサルティング・ビジネスであり、個々人あるいはチームで無形商材であるコンサルティングというサービスを提供し、対価である報酬を得て売上をあげます。
そのため、報酬が入金されるまで売掛金が計上されてしばらくキャッシュが「ない」状況が発生することはあっても、機械その他の「在庫を抱える」という行為は存在せず、そもそも非常にお金まわりの良いビジネスをしていることが分かります。

さらに、船井総研のビジネスにおけるもう1つの特徴は「工場・本社・支店等の固定資産をほとんど必要としない」という点です。

もちろん人事や労務等を行う本社機能や、一応の事務所を抱える必要はありますが、我々コンサルタントはコンプライアンスを遵守していれば、移動中でもご支援先でもパソコン1台で課題を解決できる職業です。
貸借対照表の2年間の推移を見ての通り、毎年建物・土地を購入せず、今あるリソースだけで仕事を回したとしても、本社が崩れるなどよほどの毀損がない限り事業継続できる、つまり大きな投資が不要で儲け分はそのまま自己資本・現金に積みあがるキャッシュリッチな体制が構築されているのです。

一方で損益計算書を見てみると、目につくのは2年間の「人件費の伸び」の部分です。
1年間で2.7億円もの人件費を追加的に投資し、その分売上も2018年12月は200億円を突破しているものの、人件費の伸び率はそれ以上の水準になっています。

コンサルティングは人材・命の業界で、決算書を少し見るだけでも、船井総研がいかに人的投資を重要視しているのかをうかがうことができます。
年商を上げる、利益を出すにもまずはコンサルタント1人1人が十分投資分の効果を発揮しているかどうかが大切、という目線もあります。

ちなみに2018年12月期の販管費27億円のうち、半分の14億円が人件費ということは、船井総研の費用の半分は人件費によって構成されている、というまさにコンサルティング会社ならではの費用構造をしています。
これは一見人件費以外にはあまり費用が掛からなくて良いという捉え方もできる一方、人件費という1番削減しにくい費用が重く、緊急時の対応は困難を極める可能性があるとも考えることができます。

まとめると、船井総研ホールディングスは50年の業歴の中で人的投資には積極的なものの、コンサルティング会社らしくビジネス外の投資がさほど必要ではなく、出した利益を現預金でどんどん蓄積しているキャッシュリッチの状態であるというのが見えてくるのではないでしょうか。

船井総研は「良い財務」の会社か 健全性と効率の間で

金融・M&A支援部は「キャッシュフローの最大化」をテーマにこれまでご支援を提供しており、文字通りキャッシュフロー、つまり現預金を潤沢に持ち、適切に投資を行いながら成長する企業こそ良いという話を打ち出していました。
すなわち船井総研ホールディングスのようなキャッシュリッチな財務は、まさにキャッシュを自在に投資等に回すことができるという面で盤石の体制=「良い財務」ではないかという事ができます。

しかし、ここではあえて自分が所属する企業をただ良いと判定して結論付けるのではなく、もう少し踏み込んだ財務指標まで確認することで、良い財務に関する考えを深めていきたいと思います。

【表2】船井総研ホールディングス 主要財務指標 (単位:百万円、%、年)

上記は非上場企業の主要財務指標として確認される各項目であり、先ほどの決算書から全て導くことが可能な指標です(※キャッシュフロー=経常利益×0.6+減価償却費で計算)。
借入と資本のバランスを確認することができるほか、資金の流れや利益・費用の構造も、この表の中で大枠を掴むことができるため、弊部でもご支援先にこれら指標を用いてよく話をしております。

では、東証一部上場のキャッシュリッチ財務を持つ、船井総研ホールディングスをもう少し解体すると、一体何が導かれるのか確認しましょう。
特筆すべきポイントはただ1点、「投資効率」という言葉に尽きるのではないかと思います。というのも、

・経常運転資金:日常経営のために必要となるお金がどの程度あるのかを判断する指標
⇒常に20億円のお金がないと運営できない性質である

しかし、

・有利子負債 :金融機関からの借入は極めて少なく、現預金>有利子負債となっている
 ⇒今すぐにでもお金を返済してしまえるほどにキャッシュが潤沢にある

・実質有利子負債 :金融機関へ収益返済しなければならないお金がどの程度あるかを判断する指標
 ⇒結果、収益返済しなければならないお金はゼロ以下となり「投資にもっとお金が回せる?」と判断できる

…と、現預金は潤沢にあるが、経営に必要なお金以上に余った現預金の行き先、つまり投資先をきっちり見いだせていないかもしれないということを、ある意味で主張できるのではないでしょうか。

企業経営において、非上場でも上場でも大切になってくるのは集めてきた資金をきちんと投資、配分することで投資のリターンを獲得できる体制を作り、出資者の利益を資することです。
当然キャッシュが足りなくなって企業経営が停滞し、出資したお金が焦げ付いてしまうような事態は避けねばなりませんが、儲けたキャッシュの投資を鈍らせ、安定成長~成熟・衰退・じり貧化してしまうこともまた「良い財務」の会社が描く戦略ではないというのは間違いありません。

特に上場企業においては、出資者はもはや会社の創業者のみならず、市場でその株式を購入している投資家の目線も気にしなければ、経営の原資となる出資金を安定的に集めることができず「株価下落」という形で経営を鈍らせてしまいます。
お金を貯めるというフェーズがまず財務の改善においては最重要でありながら、実はその先にある「経営効率」や「投資回収」というフェーズは、キャッシュを貯めこむ以上に難しいことでありながら、極めて重要です。

船井総研ホールディングスで言えば、そうはいっても前述の通り人的投資はしっかり行っており、その効果が粗利益や売上に貢献してくることが、1つの投資効果なのかもしれません。
その意味で、我々が引き続き価値のある商品・サービスを提供することの重要さを、改めて財務の側面からも感じます。

蓄積フェーズから投資フェーズへ 「良い財務」とは階段式

今回は、弊社船井総研ホールディングスという、東証一部上場企業の財務諸表を材料に使いながら、良い財務とはしっかりと収益を出して現預金を蓄積できることも当然ながら、蓄積したキャッシュを適切に投資に配分し、より大きな収益を確保できることで目指せるのではないかという結論を導きました。

財務というのは「階段式」です。
その時々において変化する貸借対照表と損益計算書の過去の実績を並べて企業の財務をよく把握し、何が財務のポイントとなるのかを良く理解した上で、自社に合った段階的な対策を行う必要があります。

自社は投資に出なければならないのか、あるいは今は蓄積して財務健全化を図るフェーズなのか、そして外的要因となってくる景気はどうなっているのか…。
弊社の財務も今後さらに良くなるように、1人のコンサルタントとして努力を継続しなければなりませんが、皆様もぜひもう1度、こうした視点で決算書を開いて確認してみてはいかがでしょうか。

【この記事を書いたコンサルタント】
吉田 一成

慶應義塾大学卒業。大学時代に屋久島町口永良部島の地域活性・復興支援プロジェクトに4年間参画。
プロジェクトリーダーを務めるなど多方面に活躍。
新卒で船井総合研究所に入社後、
金融機関コンサルティングから事業会社の再生支援まで幅広く従事。
金融機関・事業会社両視点からの財務コンサルティング提供が可能。

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