財務トピックス(コンサルタントコラム)

リーマン危機10年 「借りやすい」今考えるべきこと

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〇リーマン危機10年 「借りやすい」今考えるべきこと

2008年、リーマンショック。全米4位の規模を誇った名門投資銀行リーマン・ブラザーズが、取り扱っていた商品であるサブプライム・ローンの構造破綻を主因として倒産、世界的な恐慌が発生した金融業界の大事件のことですが、この事件は皆さんの記憶にも新しいのではないでしょうか。筆者はこの時まだ学生で、のちに銀行マンとして中小企業のお客様周りをすることになる(そして、現職に至る)のですが、発生から数年後ですら「リーマンの影響でね…」と不況の爪痕に苦しむ経営者の方々とお話をする機会があったほどでした。

そして2008年以降、世界は何とかこの金融不況を乗り越えようと金融緩和の方向に舵を切り、国内でも2013年のアベノミクスによる量的金融緩和が発生、市場は意図的に「お金がジャブジャブ(=金利を下げてお金を調達しやすい)」な環境へと変化しました。潤沢にあるお金で企業や個人が購買・投資を積極的に行い、氷河期を迎えた経済を再度加熱させる。これが当初描いた世界の復活シナリオ…のはずだったのですが。

リーマン危機から10年の節目を迎えたいま、日本経済新聞にはこのような記事が掲載されております。

 

〇世界の債務 10年で4割増 リーマン危機10年 マネー、成長に回らず

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35377050U8A910C1SHA000/

(2018年9月15日 日本経済新聞電子版より引用)

 

国内に限らず、先進国を中心にあふれかえったお金の「投資先」が見つからず、金融市場の復活に実態経済の成長が付いてきていない、つまりお金がだぶついているというニュースです。お金がジャブジャブ、すなわち借りやすく投資もしやすい環境下でありながら、肝心の企業の投資先が見当たらない状況が継続しており、いつの間にか世界の債務(=借入)は10年前と比較して4割も膨張しているようです。

貴社の場合は、いかがでしょうか。

・どの銀行も、金がなくなった頃に低金利で借入を売り込んでくるので、何も言わなくても資金が回る

・以前よりも金を借りることに神経を使わなくて良いので、毎回銀行の提案待ちだ

企業において、ジャブジャブにあふれた緩和マネーの影響を、このような形で受けていないでしょうか。

果たして緩和マネーであふれてカネを借りやすい環境下、それで本当に良いのか。言い換えれば、「借りやすい」今だからこそ考えるべきことはないのか。今回はこのテーマを取り上げます。

 

 

〇規則ある商流と、際限のないジャブジャブマネー

上記の通り、世界の企業は10年前より債務(=借入)を抱えている体質になっており、その要因は緩和により市場にあふれたお金とのことです。御多聞に漏れず日本も緩和マネーの影響で金利は低下の一途をたどり、国内金融機関は群雄割拠でお金の貸し先に群がる状況です。業績・業界によるものの、金融機関が次々に提案を持ってくる環境のため、借入している会社が増えやすいのは間違いありません。また、その環境は現在数年にわたって継続しているため、次第に以下のような考えが現場で聞こえてくることがあります。

「資金繰りが回らないよりは、とりあえず借りてお金を持っておくのもいいかな。金利も安いし」

「そろそろ返済でお金も減ってきたし、また借りておくのにいいタイミングかな」

「取引している銀行がどんどん増えているけど、提案が来た順番で借りておけばいいか」

しかしここで考えてほしいのは、果たして貴社の商流(=商売の流れ)は、上記の借入タイミングのように不規則なお金の流れをしているか、という点です。借入というのは、本来会社経営をより効率的行うために発生するもので、したがって借入の動きはおおむね商流と連動するはずです。しかし、緩和マネーや積極的に売り込みに来る銀行員の姿を見ているうちに、商流に必要なお金を調達するという考え方が希薄化し、いつの間にか「安く借りること」や「付き合いで借りること、たくさん借りること」が目的になっているケースが見られます。

以前「カネさえあれば、企業は死なない」のフレーズとともに、資金繰りの重要性について記事を執筆したとおり、たしかに借入もお金の一部なので、資金繰りを継続させるうえで大きなプラスになります。

 

(※参考記事)

「あの粉飾決算」から見える資金繰りの重要性

 

しかし、借入はどこまで行っても他人資本。いずれは債務者として債権者たる銀行等の金融機関に返済をしないといけない時がやってきます。その時に本来の商流とかけ離れ、借り手である経営者サイドも「何のために借入したのか」を100%説明できないようなお金が入ってしまっていたら、どうでしょうか。いつの間にか借入を返済してしまうと、たちまち経営が立ち行かなくなってしまう、非常に脆弱な資金体制になっている可能性はないでしょうか。

貴社の商流は、何らかの規則に乗っ取って動いているはずです。一方で緩和マネーは今のところ事態の収束時期を見失い、低金利の環境や金融機関からの矢継ぎ早の提案はなくなりそうもありません。いま一度このタイミングで、借入1件1件を、契約書をよく読みながら見直してみてはいかがでしょうか。

 

〇まとめ:来る(?)金融引き締めの時を見据えて

本日は、リーマンショックから10年、金融が緩和されお金が借りやすくなった現在においても、やはり借入は返済義務があり、貴社の商流(=商売の流れ)に合わせた本当に必要なお金に関してだけ、借入を行うべきであるという話をしました。今回取り上げた日本経済新聞の記事にもありますが、意図的に作り上げられた相場はいずれ収束の時を迎えます。それが再びの恐慌というハードランディングとなるのか、経済成長によるソフトランディングで終わるのかはさておき、そう簡単に借入できないような市況がやって来るかもしれません。その際に、長期にわたる「借りやすい」という太平の世で安寧を享受していては、一気に足元をすくわれて会社が崩壊してしまう可能性だってあります。リーマン危機10年の節目をきっかけに、ぜひ1度見直しをしてみてください。

その際何やらマニアックな契約書が出てきたり、金融機関の言っていることにいまいち要領を得ない場合は、ぜひ弊社金融財務支援部までご相談くださいませ。

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【この記事を書いたコンサルタント】
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