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財務の基礎知識

経営のカギを握る「財務指標」とは?~種類・活用方法をご紹介~

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 財政改善

「財務指標」という言葉を聞くと、何となく小難しい話、自分には関係のない話に聞こえてしまいます。経営を数字で把握するために必要不可欠なツールでありながら、書籍を広げてみても内容が多岐にわたるため、結局何が大切なのかを把握しきれないという方もおられるかと思います。そこで今回は、できる限りシンプルに経営判断のために最低限、必要な財務指標とは何かに関してご紹介したいと思います。

1.経営のために必要な財務指標って?

企業の財政状況や業績を「財務指標」を使って判断することを、一般的には「財務分析」と呼びます。財務分析は同業他社の売上1億円、10億円、100億円の会社を比較する際にも、多くの指標を「額」ではなく「率」でとらえることが可能になるため、比較検討の手法として非常に効率的と言えるでしょう。

たとえば、筆者が財務支援の現場で見たことがある「財務分析」の有効活用法と言えば、財務分析を人事考課制度の一部として利用することです。自社は同業の上場企業群に比べて人件費「率」がどうなっているのかを公開情報で確認し、営業利益、経常利益、当期純利益に関しても「率」で比較を行うことで「結局、いくらの賞与を従業員に還元すると良い会社なのか」について、1つの強い判断軸を作ることを可能にします。
もちろん企業は千差万別、1社1社に特殊な事情が存在する場合もあるため、一概に財務分析の数字がすべてではありません。しかし、財務分析は時に「ただやみくもに」「道しるべなく」動いていた社長の前を明るく照らす便利な道具になる可能性もあるのです。

2.経営にとって財務指標が重要な理由

前述のとおり、企業にとって自社をよく理解するためには、比較するための「ものさし」、つまり財務指標があると非常に便利です。比較対象が自社しかなく、しかも「今」の決算書や試算表だけ分析しようとしても、マクロな視点での最適解を得ることは難しいでしょう。
一方で、実は基本的な財務指標を分析・活用している企業は、中小企業庁のデータによると全体の半数程度しかないと言われています。また、特筆すべきはその中で業績悪化している企業に絞って確認すると、なんと6割の企業が財務指標は特に確認していないという結果が出ています。
風邪は引き始めが重要、すぐに病院に行って風邪薬を確保し、しっかりと休んで精をつけることが早期完治へのカギになりますが、企業においてもそれは同様です。数字は非常に生々しいもので、経営に異変があるとすぐにその結果を如実に反映するものです。ぜひ1つでも2つでも、まずは自社の財務情報の全体像をとらえることから始めてみてはいかがでしょうか。

3.財務指標を扱う財務分析にはどのようなものがある?

財務指標の分析は大きく分けて5つあります。1つ目は、利益の上がり具合の確認をするために資本や売上高に対する比率を見る収益性分析です。収益性分析は資本収益性と取引収益性があります。安全性分析は、借入をした際に返済能力がどれくらいあるかという分析です。収支のバランスや資本の流れを把握することができます。安全性分析は流動比率・当座比率・固定比率・自己資本比率となっています。

活動性分析は資産のバランスが良く、売上にしっかりつながっているかを調べる分析です。総資本回転率・固定資産回転率・棚卸資産回転率があります。生産性分析は保有している経営のための資源をどう効率良く活用して価値につなげられているかを示すものです。労働生産性や資本生産性・労働分配率があります。そして、企業のこれまでの成長から今後の成長について予測するのが成長性分析というものです。売上高増加率や利益増加率・総資産増加率・純資産増加率・従業員増加率・一株当たり当期純利益(EPS)などをチェックします。

4.特に覚えておきたい財務指標の種類

こちらでは、財務指標の種類の中でも特に覚えておきたいものについて紹介します。

4-1.収益性分析の財務指標

企業の利益について分析する「収益性分析」は、利益の金額や利益率などについてもチェックすることが可能です。まず、総資本と自己資本の利益との関係性がわかる「資本収益性」について解説しましょう。総資本経常利益率はROAとも呼ばれており、利益率が高ければ良い傾向です。資本の効率的な活用や利益があるかなどを知ることができます。総資本経常利益率の計算式は「経常利益÷総資本×100」です。同じく数字が大きいほど良いとされる自己資本当期利益率は基本となる自己資本から当期純利益の状態を知ることが可能です。こちらはROEという言い方もあります。自己資本当期利益率の計算式は「当期純利益÷自己資本(株主総資本)×100」です。

収益性分析の1つである「取引収益性」は売上が利益や経費にどのように関係しているかということがわかります。売上高総利益率は、粗利率や荒利率と呼ばれています。こちらは、総売上額から原価を引いた利益のことです。売上高総利益率の計算式は「売上総利益÷売上高×100」となっています。売上高営業利益率は、総売上利益率から経費を引いた数字のことです。経営面では重要となる経費がどれくらいかかっているのかがわかります。計算式は「営業利益÷売上高×100」です。売上高経常利益は売上高に関して経常利益がどれほどあるかがわかり、「経常利益÷売上高×100」で数値を出すことが可能です。売上高販売管理費率は売上の中で管理費などがどの程度かかっているかを知ることができ、「販売管理費÷売上高×100」で計算できます。売上高販売管理費率以外は、数値が高ければ高いほど良い状態です。

4-2.安全性分析の財務指標

企業に返済能力がどれくらいあるかや倒産につながらないかなどについてわかる分析が安全性分析です。経営するうえでは、借入があるとしてもきちんと返済できる範囲である必要があります。返済できなくなる状態では、倒産する可能性が出てくるからです。1年以内に返済できる能力は流動比率といいます。流動資産は現預金や受取手形・売掛金など、流動負債は買掛金・支払手形・短期借入金などがあります。計算式は「流動資産÷流動負債×100」です。

総資本の中で自己資本について分析できる自己資本比率は、「自己資本÷総資本×100」で数値を出せます。流動負債に対する当座資産についてわかる当座比率は、短期間で返済をどの程度できるかについて知ることができます。計算式は「当座資産÷流動負債×100」です。流動比率・自己資本比率・当座比率については、数値が高ければ高いほど良い傾向です。逆に、数値が低ければ低いほど良いのが固定比率です。自己資本を基準にして固定資産がどれくらいなのかがわかります。計算式は「固定資産÷自己資本×100」となっています。

4-3.活動性分析の財務指標

こちらは、売上に関してどの程度資産を効率的に活用できているかを知るための分析です。資本を効率的に使って多くの売上がある企業が、活発に経営されているということです。総資本回転率を出すためには「売上高÷総資本(当期・前期末平均)」という計算式を利用します。総資本は、決められた資本内で高い売上額を得ていれば回転率が良いと判断可能です。つまり、総資本回転率が良ければ、少ない資本でも大きな売上があることになります。売上に関してどれだけ固定資産を有効活用できているかについてわかる固定資産回転率は、「売上高÷固定資産(当期・前期末平均)」が計算式です。設備投資が正しくできているかを知ることができます。固定資産を基準に少ない売上や無駄に遣われたことがある場合などは適切に設備投資できていないとわかります。回転率が低い場合は、見直しをする必要が出てくるでしょう。

在庫回転率(棚卸資産回転率)は、自社製品が効率的に売上につなげられているかについて知ることができます。「売上÷棚卸資産」で数値を出せます。売上債権の回収率がわかる売上債権回転率は「売上高÷売上債権」で計算でき、数値が高いほど債権の回収をきちんとできているとわかります。

4-4.生産性分析の財務指標

企業が社員や資産などの効率的な利用で成長したかを知ることができるのが生産性分析です。従業員1人当たりの売上総利益を表した労働生産性は、「付加価値額÷従業員数(2期平均)×100」で計算できます。労働生産性は高い数値であれば、従業員それぞれの生産性が高いとわかります。1人当たりの生産性が高ければ、人員削減につなげることもできるので経営上で有効となります。資本に対する付加価値がわかる資本生産性は、数字が高いほど資産の価値が上がっているということです。資本生産性は「付加価値額÷総資本×100」で計算することが可能です。

付加価値に対する人件費がわかる労働分配率は、数字が低いほうが有効的に使用されています。人件費に関しては、給与以外にも社会保険料や法定福利費なども含まれます。ただし、労働分配率については同業種のみ比較可能です。計算方法は「人件費÷付加価値額×100」です。売上高付加価値率は「付加価値÷売上高×100」で計算可能で、売上高に対する付加価値を知ることができます。数字が大きいほど利益率が高いです。

4-5.成長性分析の財務指標

売上や利益などを通して将来的な企業の状態について知ることができる成長性分析は、非常に重要な財務指標です。前期の売上高と比較して、当期がどれだけ増減があるかわかるのが売上高増加率です。「(当期売上高-前期売上高)÷前期売上高×100」で計算できます。こちらに関しては、企業の現状によって理想数値は変わりますが、数字が高いほど良いです。ただ、成長具合の変化を考慮し、数年間かけて比較する必要があります。前期と当期の利益から成長度を知る利益増加率も数字が高いほど良いです。利益増加率は「(当期経常利益-前期経常利益)÷前期経常利益×100」で計算できます。

資産と利益の増加具合から拡大率がわかるのが総資産増加率です。総資産増加率の計算式は、「総資産増加額÷基準時点の総資産残高×100」です。社員が増えることでどれほど利益につながっているかがわかるのが従業員増加率です。「(当期従業員数-前期従業員数)÷前期従業員数×100」で計算できます。成長性分析には当期純利益(EPS)もあり、一株当たりの利益額を表しています。こちらの計算式は「当期純利益÷普通株式の期中平均発行済株式数」です。

5.財務指標を見るときに意識したいこと

財務指標は企業によって必要なものがそれぞれ違うため、自社にとって必要なものはどれなのか、選択することが重要です。現在の自社の状況を把握することは経営をするうえで非常に重要なことです。業績や財務の状況に深く関係しているものには、「内部要因」と「外部要因」があります。内部要因は販売力・営業力・商品開発力・財務内容などです。外部要因は市場・競合の有無・販売網・商品やサービスに対しての需要変化などがあげられます。財務指標に影響する要因はそれぞれの企業によって違うため、自社の要因は何なのかという点をしっかりと把握する必要があるのです。

どんなことが要因になっているかを理解したら、それを解決するために行動することで良い方向へと向かうことが期待できます。経営するうえで、利益を得るためにどのように行動するかを考えることはとても重要です。しかし、頭の中で考えていることを実際に行動に移すにあたり、自社の状況がそれに見合っていないケースもあります。そこで、財務指標に注目して適切なバランスをとるための方法を考えてみましょう。財務指標に影響を与えている要因は徹底的に見直すようにするのです。

財務指標の中でも特に注目すべきは「1人当たりの付加価値額(労働生産性)」です。従業員ひとりひとりの売上総利益が高ければ、経営的に厳しい状態であっても倒産にまで陥ってしまう可能性は低くなります。東京都産業労働局によると、1人当たりの付加価値額は「(営業利益+人件費+減価償却費)/従業員数」で計算できます。営業利益は「(売上総利益-一般管理販売費)」でわかります。ちなみに、減価償却費は繰延資産の償却費やリース・レンタル費用込みです。マイナス要因になっている部分の改善を行った後、さらにより良い経営へつなげる方法の1つとして、1人当たりの付加価値額の向上を目指すのも効果的です。

財務指標を理解して経営判断に活かそう!
財務指標は、企業の経営状況を知るために非常に重要なものです。財務指標にはさまざまな分析方法がありますが、経営判断をするためにそのすべてを取り入れる必要はありません。自社の状況によって、必要な財務指標だけをピックアップするのがおすすめです。まずは自社の決算書を取り出し、そのなかの1つでも2つでも分析を行うことで、経営判断にうまく取り入れるようにしましょう。

 

 

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