財務トピックス(コンサルタントコラム)

コカ・コーラ値上げで考える事業計画策定の基本

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「コカ・コーラ」といえば、誰もが知る大人気・超ロングセラー飲料です。
公式サイトによれば始まりは1886年のアメリカと100年以上も前であり、
事業会社の存続10年説とも30年説とも言われる今日、
ただの飲料であるコカ・コーラがこれだけ長期間生き残っていることが、
いかに素晴らしいことか分かります。

筆者も飲みすぎは体に良くないと分かりつつ、
つい夏の暑い日や疲れた仕事帰りに見かけると買ってしまうようなコーラ好きですが…
そんな愛好者には残念なニュースが飛び込んできました。

〇コカ・コーラ、最大1割値上げ 19年4月に27年ぶり

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39191990Q8A221C1TJ2000/
(2018年12月20日 日本経済新聞電子版より引用)

飲料メーカー国内最大手のコカ・コーラボトラーズジャパンは来年2019年4月にも、
コカ・コーラを含む主力の清涼飲料水の希望小売価格を、
6%~最大10%程度値上げするとのことです。

くしくも筆者が生まれた1992年からコーラが1度も値上げされていなかった事実に、
20年超の国内デフレの爪痕を感じずにはいられませんが、
ついに物流コストや原材料高騰を受け、価格転嫁に踏み切るようです。

記事にはこうした原材料費・輸送費高騰によって、
近年同社の利益が次第に毀損していたという話もありました。
同社は、競合他社の価格水準・外的環境をマーケティングの観点で調査しつつ、
売上・収益・費用影響という財務の観点で今後の業績を予測し、
結果として「値上げ」という27年ぶりの難しい選択に踏み切ったのだと思います。

「コカ・コーラ(主力商品)の値段を上げるか、下げるか、据え置くか」。

単純な選択のようで、そこには上記の要素が複雑に絡み合い、
判断を誤れば顧客離れや利幅縮小、減収減益という最悪の事態が発生します。

特に財務は嘘をつかず、如実に経営の結果を浮かび上がらせる
会社の健康診断シートのようなもの。
人間が診断結果を予測して禁酒したり運動を始めたりするように、
財務もできる限り先を正確に予測し、
各企業判断がどのように財務に響くかを把握することが大切と言えるでしょう。

貴社は、どこまで企業判断と財務をリンクできているでしょうか。
判断を行う際に、それが財務のどこに影響し、
どんなB/S・P/Lになるかを、論理的に描くことはできるでしょうか。

今日は27年ぶりのコーラ値上げを題材に
「財務的事業計画の作り方」の基本を伝授できればと思います。

〇自社課題を「財務ことば」に置き換えるところから

たとえば、仮に飲料メーカー・株式会社F飲料の代表取締役であるK社長が、
一定のブランドを確立している主力商品「Fソーダ」の
値上げや各種施策を検討しているとしましょう。
あれやこれや考えるべきことがあり過ぎて悩んでしまうので、
ひとまず以下のメモに、考えていることを箇条書きで出すことにしました。

4つの悩みは何となく決算書に載っていそうな話から、
人の採用という会社の財務と一見関係のないような定性的な話も含まれていますが、これでOK。

まずはこの悩みを「財務ことば」に置き換え、
B/S、P/Lのどこに影響があるのかを転記することから、事業計画策定はスタートします。

以下図をご覧ください。

上記は、1~4の悩みを
「1=売上のハナシ」「2・3=原価のハナシ」「4=販管費のハナシ」に置き換え、
それを損益計算書(P/L)のフォームに落とし込んだものです。

赤い部分はK社長の話している内容から置き換えられる部分、
青い部分は社長の言葉をヒントに想定された計算結果です。
では、社長の悩みA・B、そして出力された粗々の計画を見て、
何が具体的に言えるかを考えましょう。

【簡易的な分析結果】
(悩みA)
現状、原価50円⇒60円となり粗利が少なくなっているとはいえ、
年間で同じ本数を販売し続ければ、利益(120百万円)で本社費用(90百万円)は賄える。
しかし仮に原価が60円⇒ 70円となった場合は、商品の値上げを検討しなければ、
本社経費を粗利で賄えなくなりそうだと予想される…。

(悩みB)
月給25万円=年収300万円が新たに本社人件費(=販管費)にプラスされることで、
売上・粗利が変わらないのであれば営業利益が30百万円⇒27百万円、利益率も10%以下に下がる。
しかし黒字は確保しており、この利益水準で金融機関への借入返済や、
利払いができるかどうかを調べる必要がある…。

いかがでしょうか。
事業計画策定では、まず自社の悩みを洗いざらい書き出し、それをいかに適切に
「財務ことば(=財務諸表のどこの話をしているか)」に置き換えられるかが大切です。

会社の悩みは千差万別、なかにはとても複雑な事情が絡む要素もありますから、
上記のように一筋縄ではいきません。
また、
・金融機関への返済、毎月の収入・支出といった「資金繰り」も絡めた計画となっているか?
・明らかに昨年の実績から乖離した「夢物語」の計画となっていないか?
・P/L、B/S、資金繰りがきちんと連動するはずの計画となっているか?

と、レベルを1段階あげれば事業計画策定はますます困難を極めます。

ここで「面倒くさい!」となってしまいそうですが、上記の簡易分析ができるだけでも、
人材採用をどこまで行うことができるのか、値上げをするべきなのか、
いらないのかという判断指標を手にすることができるのも事実。

ひとまず、K社長のように自社の課題を1つ1つ丁寧に書き出し、
それが「財務で言うと、ナニ(売上・利益・費用・単価・在庫・借入…)なのか、
置き換えるところから始めてみるのはいかがでしょうか。

〇まとめ:究極の事業計画とは

今回は筆者も愛するコカ・コーラが27年ぶりの値上げを行うというニュースから、
単価変更の際の重要な判断指標となる「事業計画」を作る際の
基本的な考え方(財務ことばへの置き換え)に関してお話しました。

最初のうちは言葉から置き換えたのち、
財務諸表に転記をする段階でひと苦労するかと思いますが、
慣れてくれば財務諸表の構造はいたって簡単で、
次第に数字と実態が頭の中でリンクしていく感覚が生まれるかと思います。

また、これができるようになれば、
貴社の決算書の中身を知り尽くしている金融機関の人間とも、
対等に財務ことばを使った有利な交渉が可能となるでしょう。

まずはたたき台となるメモの書き出しから、ぜひ取り組んでみていただければと思います。

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【この記事を書いたコンサルタント】
財務支援部

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