財務トピックス(コンサルタントコラム)

変容するリース取引と財務

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  • 変容するリース取引と財務

リース取引というと、企業においては自動車やコピー機のほか、工場の中の高額なプレス機やその他の工作機械を「リース取引」で導入したり、毛色が違うところでは飛行機や船舶を活用したレバレッジド・リースといったものもリース取引と言いますよね。設備投資の際の手段の1つとして幅広く活用されており、財務の面でも普通の購入と異なるメリットが得られるため「むしろうちは財務・会計的メリットをとるためにリースを活用している」という企業もあると思うのですが、実は国際会計基準では、2019年よりリース取引の会計処理が大幅に変更され、今まで取れたメリットが取れなくなってしまう模様です。

 

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO32467660Q8A630C1EA1000/

(2018年6月30日付 日本経済新聞電子版より引用)

 

日本では今のところ国際基準に合わせすぐに処理方法を変更するという発表は出ていないものの、いつ国際会計基準に合わせた変更が発生するかはわからず、リースを活用されている企業ではどのような財務的影響が発生するのかを確認する必要があると思います。

そこで今回は、いま一度リース取引とは何かを勉強し、

財務面において今後どのようなことが考えられるかを取り上げます。

 

  • リース取引のいろは

リース取引と一言で言っても、取り扱う商品は千差万別、リース会社もメーカー系列から銀行系列と幅広に存在しているため、あらゆる種類があるように見えますが、大きくは「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の2つに分かれます。

 

ファイナンス・リース

導入したい物件に関してリース契約を行ったら、途中で解約をすることなく、定められた期間費用を支払いながら100%物件から発生するメリットを活用しきるリースのことを指します。期間が終了した段階でその物件を借主側が自分の所有物にできる場合(所有権移転リース)と、期間終了後はその物件をリース会社に返却する(所有権移転外リース)形式のものがあります。

 

例)株式会社Aはリース会社Bと契約を結んで1,000万円の工作機械(法定耐用年数10年)を工場に導入し、10年間で金利等も含めて毎月●●円をリース会社に支払いすることになった。なお10年後リース期間が終了したのちは、リース会社Bにその機械を返却することになった(所有権移転外リース)。

 

ファイナンス・リースはお金を金融機関から借りて設備を購入するのと実態的には変わらず、例のケースで言えば「銀行から1,000万円を期間10年で借りて工作機械を購入し、金利も含めて毎月●●円を返済していくことになった」と置き換えても、所有権の部分以外は差がないように見えます。会計上においてもファイナンス・リースの場合はルールに基づき貸借対照表への掲載が必要となる場合があり、財務内容に影響を与える取引となる可能性があるため、普通の設備投資と同様に「今投資を行うことで、財務にどういった影響が出るか」をよく判断する必要があります。ただし金融機関からの借入と異なり、リース会社の与信枠を活用した設備投資となるため、銀行の融資枠を減らすことなく設備の導入が可能で、「設備に担保を入れさせてください」と言われることもありません。また、当該物件の所有権は期間中リース会社にあるため、固定資産税の支払いや減価償却のための管理が不要という、リースならではのメリットはもちろん享受することができます。

 

オペレーティング・リース

オペレーティング・リースの場合は、企業は耐用年数よりも短い期間でリース契約を結んで物件の賃貸借を行い、期間満了後は原則として当該物件を返却する手法のことを指します。これはリース会社が返却後の物件を再販することを前提としており、中古市場が成熟している自動車・工作機械・医療機器などの世界ではよく活用される手法です。特に自動車に関しては中古車販売店がどこにでもあるほど国内市場が成熟しており、近年は個人に対しても「マイカーリース」といった商品名でオペレーティング・リースが活用されています。

 

例)株式会社Aは総額2,500万円のプレス機(耐用年数10年)の導入を決定し、リースを利用することにした。リース会社Bとは耐用年数の半分の5年でオペレーティング・リースの契約を結び、5年たったら「プレス機を返却する、もう1度契約して再リースする、買取して株式会社Aのものにする」のどれかを選択することになった。この時、Bは新品のプレス機を仮に5年間使用した場合、5年後のプレス機の価格は新品の4割程度(1,000万円)程度の価値(残価)がつくと見積もったため、5年で契約を行う株式会社Aには5年間で6割(1,500万円)の元本+金利等を毎月支払ってもらうことにした。

 

上記の通りオペレーティング・リースには「残価」という考え方があり、残価分は期間中の支払いに入ってこないため、企業にとっては金融機関からの借入と異なり、2,500万円+金利を分割して払うよりも支払い負担が緩和されるという資金繰り上のメリットがあります。当然5年後には再度リース会社と打ち合わせを行い、物件の処遇を決めないといけませんが、近年は上記のように「再リース」や「買取」という選択肢も取れるため、企業の状況に合わせて柔軟に物件の処遇を決めることが可能です。

また、オペレーティング・リースは短い期間だけリース会社の所有しているものを借りて使っているという考え方であるため、貸借対照表への計上が不要(損益計算書上で「リース料」の計上は発生)という財務的メリットがあります。例えば、以下図をご覧ください。

 

【図】

例えば、まったく同じ中小企業Aが貸借対照表に乗せる必要のあるファイナンス・リースを利用して設備を導入した場合と、オペレーティング・リースを活用した場合の貸借対照表を考えましょう。

①では、リース資産を導入した際に発生するリース会社宛の「リース負債」も貸借対照表に掲載されるため、株式会社Aの有利子負債(借金)は長期借入金と合計した60百万円です。すると、この会社の総資産が100百万円ですので、総資産に対する有利子負債の割合は60%と、金融機関が「少し借金が多い企業かな」と判断する水準となってしまいます。

一方同様の資産をオペレーティング・リースで導入した場合はどうでしょう。この場合は、前述の通り会計上その資産は短期的にリース会社から借りて使っているだけのもので資産として計上せず、反対側の負債に関しても「リース会社への支払い(費用)」として損益計算書の販売費および一般管理費で都度処理できるため、同じことをしているのに有利子負債が少ないように見える効果が発生しています。ただし販管費にはしっかり「リース料」と掲載されるので、なかには金融機関もきちんとその部分を見て「実態の有利子負債はいくらか」と確認する場合もありますが、有利子負債への依存度が表面上とは言え10%も下がる見栄えの変化は大きいですよね。このほかにも、オペレーティング・リースの活用により資本効率や自己資本比率といった項目が表面上改善するため、企業にとってこれほどおいしい手法もなかった、というわけです。

今回、国際会計基準において変更となるのが記事の通りまさしくこの部分で、2019年度よりオペレーティング・リースであっても実態に即して「資産計上(=つまり、リース債務も計上)」することになりました。

 

財務のコンサルタントとして金融機関の方々とお会いしている経験ベースでの話にはなりますが、販管費に掲載されている「リース料」をいちいち確認して本当の有利子負債額を聞き出すことまでやっている金融機関は、相当のことがない限り少ないように感じます。一方、前述の通り銀行は決算書主義。決算書に乗ってしまった数字を見逃してくれるような甘さはありません。仮にこうした会計変更が日本にも適用されてしまうと、リース取引を積極的に行っている企業の決算書の有利子負債が会計変更で急増し、特に実態は変化していないのに財務数値が悪化して、最悪の場合「お金を借りることができない!」という事態に陥りかねません。実はそれだけ、影響のある話なのです。

 

 

  • まとめ:これからのリース取引

国際会計基準の今後の変更に伴い、国内でもリース取引が会計上大きく変容する可能性が議論されています。今までは毎月のリース料の支払いにに注意していれば、貸借対照表の数値がどうなっているかまで見なくても良かった取引が、今後は貴社の財務を傷めてしまう一因となるかもしれません。ただし、リース取引が全ての意味を失うわけではなく、相変わらず管理負担の軽減や、先行投資額の軽減、補助金を活用できる場合がある等の各種メリットが存在するため、今後も場合に応じて機動的にリース取引を活用していくことをお勧めします。一方で、会計基準変更の可能性を考え、貸借対照表に乗せなくていいからと考え無しにリースを活用するのではなく、今のうちから一般的な借入を活用する設備投資のように「投資計画」「返済計画」「事業計画」をきちんと活用した経営が重要となります。

「そうか。なんだか難しい話だったな。具体的にうちの会社だと設備投資はいくらまで可能なのか」

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【この記事を書いたコンサルタント】
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